食品を身近に感じる我々消費者にとって、「過剰生産」「過剰除去」という言葉はあまりなじみがないかもしれません。
しかし、これらは食品業界で長らく取り組んできた大きなジレンマであり、その解決が私たちの日々の生活や地球環境にも大きな影響を与えているのです。
食品業界での過剰生産の現状と過剰除去の影響
食品業界では、「過剰生産」と「過剰除去」が大きな問題となっています。
食品の過剰生産とは
過剰生産は、市場の需要を超えて商品が生産される状況を指します。これは、生産者が市場の需要を過大評価したり、生産計画が適切に調整されていない結果として発生します。食品業界においては、天候や病害、流行、消費者の嗜好の変化など予測が難しい要素が多いため、過剰生産が発生しやすいのが特徴です。過剰生産された食品は、売れ残ったり、期限が切れる前に廃棄されたりします。
食品の過剰除去とは
過剰除去は、本来食べられるにも関わらず捨ててしまうことを指します。例えば、野菜や果物の皮を厚くむいたり、魚の頭や内臓を捨てたりすることが過剰除去にあたります。この過剰除去は環境負荷を増大させ、食品の価値を無駄にするだけでなく、経済的な損失ももたらします。
食品の過剰生産・過剰除去の影響
食品の過剰生産と過剰除去は、生産コストや農業地域における環境負荷の増大をもたらし、水資源の枯渇や土壌劣化といった問題を引き起こします。
国際連合食糧農業機関(FAO)の報告によると、世界的に見て年間約13億トンの食品が廃棄されています。これは世界の食品生産の約1/3に相当します。
この過剰除去は、環境への影響だけでなく、経済的な損失も引き起こします。
また、過剰生産により生じた食品の廃棄は、食糧不足に苦しむ人々への支援に回すことができるリソースを浪費してしまうという側面もあります。
サプライチェーンの問題点と解決策
見た目の基準と過剰除去
食品業界では、製品の外観に高い基準が設けられています。見た目が完全でないと判断された製品は、消費者が求める品質に達していないとみなされ、過剰に除去されることがあります。
この基準の見直しや、"見た目の違う"食品を消費者に適切に紹介する取り組みが必要とされています。
情報の非対称性と需要予測の困難
生産者、卸売業者、小売業者、消費者というサプライチェーン全体の情報共有が十分に行われていないと、各段階での適切な需要予測や在庫管理が困難となり、結果として過剰生産や過剰除去が発生します。
AIやIoTを用いた需要予測や在庫管理の最適化は、これらの問題解決に有効な手段となり得ます。
安全マージンと賞味期限設定
食品業界では、消費者の安全を確保するために、しばしば過度な安全マージンを持たせた賞味期限や食材の除去範囲が設定されます。これにより、品質が保たれているにも関わらず、賞味期限が迫った商品が過剰に廃棄されることがあります。
賞味期限設定の見直しや、消費者の食品の可食部に対する理解の促進が求められます。
消費者の責任
見た目重視の功罪
また、消費者が「見た目」や「品質」に過度に重視することも、食品の過剰除去に繋がっています。完璧な形状や色を求める嗜好は、少しでも見た目に傷や変色があると食品が売れ残る結果となります。
このような消費者の行動や意識は、生産者に過剰生産を促す影響を与え、サプライチェーン全体に波及します。
私たちにできること
食品の価値を理解し、その無駄を避けるためには、消費者としての意識を持つことが重要です。具体的には、購入計画を立てる、小分け包装を選ぶ、冷凍保存を利用するなどの行動が求められます。また賞味期限と消費期限の違いを理解することも重要です。
私たち一人ひとりが食品の価値を理解し、無駄を減らすことが可能です。これは、過剰生産や過剰除去の問題を解決するための重要な一歩となります。
「過剰生産」「過剰除去」とSDGs
「過剰生産」や「過剰除去」の問題は、国際社会が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」とも深く関わっています。
目標2:ゼロハンガー
食品廃棄が大量に発生する一方で、世界には飢餓を経験する人々がまだ多数存在します。食品の過剰生産と過剰除去を抑制すれば、その分、飢餓に苦しむ人々への食糧供給が増える可能性があります。また、生産過程で使われる資源を最大限有効活用し、飢餓の解消につなげることが可能です。
目標12:つくる責任 つかう責任
この目標は、持続可能な消費と生産を推進することを求めています。食品の過剰生産や過剰除去は、この目標達成の大きな妨げとなっています。過剰生産と過剰除去を抑制し、食品の価値を最大限に活用することが必要です。
これには、消費者ひとりひとりが食品の無駄を減らす行動を取ることが求められます。
目標13:気候変動に具体的な対策を
食品廃棄は、温室効果ガスの大量排出につながります。FAOによると、食品廃棄によるCO2排出量は、全世界の国々の中で3位となる量を占めています(出典:FAO, 2013年)。
過剰生産・過剰除去を抑え、食品の無駄を減らすことで、温室効果ガス排出量を大幅に減らすことが可能です。
目標15:陸の豊かさも守ろう
過剰生産による農地の乱開発や土壌劣化は、生物多様性の損失を引き起こします。持続可能な農業の推進と、必要な分だけの生産に抑えることで、豊かな陸地を守ることが可能となります。
食品業界の持続可能性を向上させるためには、これらのSDGs目標達成に向けた行動が必要です。
食品の過剰生産・過剰除去と再利用技術
食の再利用技術の可能性
食品業界における再利用技術は、食品の過剰生産・過剰除去問題に対する有望な解決策の一つです。具体的な例としては、ビジュアル的に劣るが品質上問題のない食品を、別の形で再利用する「アップサイクリング」が挙げられます。また、食品廃棄物をバイオガスとしてエネルギー源に転換するテクノロジーも進化しており、これらは食品の価値を最大限に活用し、食品廃棄の軽減に寄与しています。
再利用技術の課題と展望
再利用技術が広く普及するためには、多くの課題が立ちはだかっています。まず、ビジネスモデルの開発や市場の創造が求められます。また、消費者の意識改革も重要で、再利用技術による製品に対する理解と受け入れが不可欠です。さらに、各国の規制や政策による後押しも必要で、特に食品廃棄物を利用する際には衛生基準を満たすための法的な整備が欠かせません。
テクノロジーと再利用技術の融合
テクノロジーの進歩が再利用技術の発展に寄与しています。
AIやIoTの活用による精緻なデマンド予測や、在庫管理の最適化などが進行中で、これにより過剰生産や過剰除去を抑制する一方、再利用すべき食品廃棄物の把握・利用も容易になります。
これらのテクノロジーを活用して、サプライチェーン全体での情報共有と協力を強化することが、再利用技術の普及につながると期待されています。
食品の過剰生産や過剰除去といった課題は巨大なものではありますが、それぞれの問題は消費者の選択、業界の努力、技術の進歩という形で解決に向かって動き始めています。
一見遠い問題のように思えるかもしれませんが、私たち一人ひとりが日々の食事選びを通じて持続可能な社会に影響を与えているのです。
選択と行動の積み重ねが、食品業界だけでなく地球全体をより良くする力になることを信じて、明日の食卓を考えてみましょう。
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