令和5年8月に、農林水産省より最新の「食料需給表」が公表されました。
日本の食料自給率はここ30年の間40%を前後しており、国内で消費される食品の多くを輸入に頼っています。この低い自給率は、国内の食糧供給に対する脆弱性を示し、農業政策や食品安全保障の課題となっています。
食料自給率を2030年までにカロリーベースで45%まで上昇させるという国の目標に対して、現状の進捗状況はどうなっているのでしょうか。
本記事では、近年の食料自給率の推移と、消費者、事業者、自治体がどのような具体的な行動をとるべきかについて考察していきます。
令和4年度の日本の食料自給率が発表
日本の食料自給率は、国内で消費された食料のうち、国産の占める割合のことです。
農林水産省の発表によれば、令和4年度(2022年度)の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで58%となりました。
世界的に見るとカロリーベースで53位、生産額ベースで29位となっています。
これは、過去最低を記録した2018年度からわずかに改善されたものの、依然として低い水準にとどまっています。
日本の食料自給率はなぜ低いのでしょうか?
また、食料自給率が低いことにはどんな問題があるのでしょうか?
日本の食料自給率の状況
戦後の食料自給率
日本の食料自給率は、戦後から現在までに大きく変化してきました。
戦後間もない頃は、食糧不足に苦しんだ日本は、国内で可能な限り食料を生産することを目指していました。
その結果、昭和60年度にはカロリーベースで73%という高い水準に達しました。
高度経済成長の食料自給率
しかし、その後、高度経済成長や国際貿易の発展に伴って、日本人の食生活は多様化しました。
米や魚などの伝統的な食材から、肉や乳製品などの畜産物や加工品へと消費がシフトしました。
これらの食材は、国内では十分に生産できないため、輸入に頼ることが多くなりました。
特に畜産物は、飼料用穀物や大豆などを大量に輸入する必要があります。
農業人口の減少
また、農業人口や農地面積も減少し、農業生産力も低下しました。
これらの要因により、日本の食料自給率は徐々に低下していきました。
平成7年度にはカロリーベースで43%まで落ち込みました。
その後も横ばいが続き、平成30年度にはカロリーベースで37%(過去最低)となりました。
日本の食料自給率が低い理由
日本の食料自給率が低い理由は、主に以下の3つに分けられます。
食糧需要と供給の構造的な不一致
日本人が消費する食糧と日本が生産する食糧は一致していません。
このように、米や野菜などは国内でほぼ自給できていますが、肉や乳製品などは大幅に輸入に頼っています。
また、小麦や大豆なども国内需要を満たすことができず、飼料用穀物や油脂類・砂糖類・でん粉類などもほとんど輸入しています。
現代の日本人が好んで食べる食糧は、国内で生産しにくいものが多いのです。
これは、日本の気候や土壌、地形などの自然条件や、農業生産のコストや競争力などの経済条件によっても左右されます。
また、消費者の嗜好や価格感覚も影響します。
例えば、国産の肉や乳製品は輸入品よりも高価であることが多く、消費者は安い輸入品を選ぶ傾向があります。
食糧安全保障の観点からの輸入依存
日本は、食糧安全保障の観点から、食糧の輸入に積極的に取り組んできました。
食糧安全保障とは、国民が常に十分な量と質の食糧を確保できることを意味します。
日本は、戦後の食糧不足の経験や、自然災害や国際紛争などの不測の事態に備えるために、食糧の輸入を促進する政策を採用してきました。
例えば、1960年代から1970年代にかけては、米以外の穀物や大豆などを低関税で輸入することで、畜産物や加工品などの供給を増やしました。
また、1980年代から1990年代にかけては、米を含むすべての農産物を自由化する世界貿易機関(WTO)協定に参加しました。
これらの政策は、日本人の食生活を豊かにするとともに、食糧安全保障を高めることを目的としていました。
しかし、食糧の輸入に頼ることは、食料自給率を低下させるだけでなく、他国との関係や国際市場の動向に左右されるリスクもあります。
例えば、輸出国が収穫不振や政治的な理由で輸出制限を行ったり、国際価格が急騰したりすると、日本は食糧の確保に困難をきたす可能性があります。
また、輸入された食糧の安全性や品質にも注意が必要です。
農業生産力の低下
日本の農業生産力は、長期的に低下しています。
農業生産力とは、農業生産に投入される要素(労働・資本・土地・技術等)に対する農業生産額(作物・畜産物等)の比率です。
農業生産力が高いほど、少ない投入で多くの生産ができることを意味します。
日本の農業生産力は、戦後から1970年代までは高度経済成長とともに上昇しましたが、1980年代以降は停滞しました。
これは、以下のような要因が影響しています。
- 農業人口や就農者数の減少
- 農業従事者の高齢化
- 農地面積や耕地利用率の低下
- 農業技術や設備の陳腐化
- 農業経営の規模や効率の低さ
- 農業政策や制度の不適切さ
これらの要因により、日本の農業は、国際的な競争力や持続可能性に欠ける状況にあります。
しかし、日本の農業生産力は、先進国の中でも最低レベルにあると言われています。
日本の食料自給率が低いことの問題点
日本の食料自給率が低いことには、以下のような問題点があります。
食糧安全保障の脆弱化
日本は、食糧の約6割を輸入に頼っています。これは、世界で最も食糧輸入依存度が高い国の一つです。食糧の輸入に頼ることは、食料自給率を低下させるだけでなく、食糧安全保障を脅かすリスクもあります。例えば、以下のような事態が起こる可能性があります。
輸出国が収穫不振や政治的な理由で輸出制限を行った場合、日本は食糧の確保に困難をきたす可能性があります。例えば、2007年から2008年にかけて、世界的な穀物価格の高騰に伴って、多くの国が穀物の輸出制限を行いました。これにより、日本は小麦や大豆などの確保に苦労しました。
国際価格が急騰した場合、日本は食糧費用に多くの外貨を支払う必要があります。これは、貿易収支や国際収支に悪影響を及ぼす可能性があります。また、消費者も食料品価格の上昇に直面することになります。
輸入された食糧の安全性や品質に問題があった場合、日本は消費者の健康や信頼を損なう可能性があります。例えば、2008年には中国産乳製品にメラミンという有害物質が混入されていることが発覚しました。これにより、日本では中国産乳製品への不信感が高まりました。
以上のように、日本は食糧安全保障において他国や国際市場に大きく依存しており、不安定な要素が多く存在しています。
このような状況は、日本人の生命や健康を守る上で重大な課題です。
農業・農村・食文化の衰退
日本の食料自給率が低いことは、農業・農村・食文化にも悪影響を及ぼしています。
例えば、以下のような問題が指摘されています。
- 農業生産力や競争力の低下
- 農業従事者や後継者の減少や高齢化
- 農地の荒廃や集約化
- 農業経営の多様化や規模拡大の困難さ
- 農業政策や制度の不適切さや複雑さ
- 農村社会の活力や魅力の低下
- 伝統的な食文化や食育の喪失
- 食料の多様性や地産地消の減少
これらの問題は、日本の農業・農村・食文化の持続可能性や豊かさを損なうことになります。
農業・農村・食文化は、日本人のアイデンティティや文化遺産であり、生態系や環境保全にも貢献しています。
そのため、これらを守ることは、日本人の生活や社会にとって重要な意義があります。
日本の食料自給率を高めるために
日本の食料自給率を高めるためには、以下のような取り組みが必要です。
食糧需要と供給の構造的な改善
日本人が消費する食糧と日本が生産する食糧を一致させることが、食料自給率を高めるための基本です。
これには、以下のような方策が考えられます。
消費者側では、国産食材への需要を高めることが重要です。
例えば、国産食材の表示や認証制度を強化したり、国産食材を使ったレシピやメニューを紹介したり、国産食材に関する教育や啓発活動を行ったりすることができます。
また、消費者は、国産食材の価値や安全性を理解し、適正な価格で購入することが求められます。
生産者側では、消費者のニーズに応えることが重要です。
例えば、肉や乳製品などの畜産物や加工品を増産したり、小麦や大豆などの穀物を多品目栽培したり、新しい品種や技術を開発したりすることができます。
また、生産者は、品質や安全性を確保し、効率的かつ環境に優しい農業経営を行うことが求められます。
食糧安全保障の強化
日本は、食糧安全保障において自立性と協調性を両立させることが必要です。
これには、以下のような方策が考えられます。
国内生産の重要性
自立性を高めるためには、国内で可能な限り食糧を生産することが重要です。
例えば、農業生産力や競争力を向上させたり、農業人口や後継者を増やしたり、農地面積や耕地利用率を拡大したりすることができます。
また、非常時に備えて食糧備蓄制度を整備したり、国内で再生可能な飼料資源を確保したりすることも必要です。
続けると、以下のような方策が考えられます。
協調性を高めるためには、食糧の輸入において安定性と多様性を確保することが重要です。
例えば、食糧の輸出国との関係を強化したり、食糧の輸入先を多角化したり、食糧の輸入条件や規制を適正化したりすることができます。
また、食糧の安全性や品質に関する国際基準や協力体制を整備したり、食糧の輸入に関する情報や監視体制を強化したりすることも必要です。
農業・農村・食文化の振興
日本の農業・農村・食文化を守るとともに、発展させることが必要です。
これには、以下のような方策が考えられます。
農業・農村の活性化のためには、農業経営や農村社会の多様化や創造性を高めることが重要です。
例えば、農業経営においては、付加価値の高い商品やサービスを開発したり、6次産業化や地域ブランド化を推進したり、新規就農者や女性・若者・外国人などの参入を促進したりすることができます。
また、農村社会においては、地域資源や伝統文化を活用したり、地域コミュニティやネットワークを形成したり、都市との交流や協働を促進したりすることができます。
食文化の継承と創造
食文化の継承と創造のためには、食育や食文化教育の充実や普及が重要です。
例えば、学校や家庭での食育活動やカリキュラムを充実させたり、地域や企業での食文化教育やイベントを開催したり、メディアやSNSでの食文化情報やコンテンツの発信や共有を行ったりすることができます。
また、伝統的な食文化だけでなく、新しい食文化も創造し、国内外に発信することも必要です。
まとめ
日本の食料自給率は、戦後から現在までに大きく低下しており、現在は38%(カロリーベース)という低い水準にあります。
日本の食料自給率が低い理由は、主に食糧需要と供給の構造的な不一致、食糧安全保障の観点からの輸入依存、農業生産力の低下などにあります。
日本の食料自給率が低いことには、食糧安全保障の脆弱化、農業・農村・食文化の衰退などの問題点があります。
日本の食料自給率を高めるためには、食糧需要と供給の構造的な改善、食糧安全保障の強化、農業・農村・食文化の振興などの取り組みが必要です。
日本の食料自給率は、日本人の生活や社会にとって重要な指標です。
日本人は、自分たちが何を食べ、どこから食べ物を調達し、どのように食べ物を作り、どのように食べ物を楽しむかを考える必要があります。
日本の食料自給率を高めることは、日本人の健康や幸福、アイデンティティや文化遺産、生態系や環境保全などにも貢献することになります。
日本人は、食料自給率に関心を持ち、行動に移すことで、日本の食料自給率を高めることができます。
※参考文献※
農林水産省(2021)「令和3年度食料・農業・農村白書」
農林水産省(2020) 「食料自給率の推移」
農林水産省(2020) 「主要農産物の国内生産量及び消費量」
農林水産省(2020) 「主要畜産物の国内生産量及び消費量」
農林水産省(2020) 「主要穀物の国内生産量及び消費量」
農林水産省(2020)「飼料用穀物・油脂類・砂糖類・でん粉類等の国内生産量及び消費量」
農林水産省(2019) 「食料自給率とは?」
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