日本の日々の生活に欠かせない石油。
この黒い液/体がどのように私たちの生活や産業、さらには国の発展に影響を与えてきたののでしょうか。
その歴史と現在、そして未来に目を向けてみましょう。
石油の歴史
石油とは:その始まり
石油は、地中深くに存在する、有機物が長い年月をかけて変質してできた、炭化水素を主成分とする液体です。
石油の成分は、炭素、水素、酸素、硫黄などの元素で構成されています。炭素と水素の割合が多いため、燃焼すると大量のエネルギーを放出します。
また、炭素と水素の結合の仕方によって、さまざまな性質を持つ化合物が合成できます。
石油の歴史は古く、自然からの恵みとして長い間人々に知られていました。紀元前6000年頃のペルシャで松脂や石油の蒸留が行われていたことや、古代バビロニアやエジプトでは、石油が防水材や接着剤として使われていたことが記録されています。
日本でも江戸時代には、自然に湧き出る油田から採取され、灯油としての用途がありました。
石油の普及
石油の普及は、19世紀後半の産業革命以降、急速に進みました。
蒸気機関や内燃機関の登場により、石油は燃料として広く使われるようになりました。さらに20世紀初頭には、自動車の発明と普及により、ガソリンの需要が急速に高まりました。
1859年、アメリカのペンシルベニア州で、世界初の商業的な石油採掘が始まりました。この出来事は、石油産業の始まりを告げるものとなりました。
その後、世界各地で石油が採掘されるようになり、石油の需要は急増しました。
石油は、その燃焼効率の高さと、さまざまな化合物に精製できることから、近代社会の基盤となるエネルギー資源として、欠かせないものとなりました。
日本でも、大正時代に入ると、自動車や船舶、そして航空機への石油製品の利用が増加し、石油は重要なエネルギー源となりました。第二次世界大戦中には、軍事用途での石油需要が高まり、その後の高度経済成長期には、石油は産業と日常生活に欠かせない資源となっていきました。
石油の産業化
20世紀初頭には、石油の精製技術や石油化学技術の開発が進み、石油をより効率的に利用できるようになりました。これにより、石油の産業化が飛躍的に進展しました。
石油の精製技術の進歩により、石油からガソリン、灯油、軽油、重油、アスファルトなどのさまざまな製品が製造できるようになりました。
さらに石油化学技術の進歩により、ポリエチレン、ポリプロピレン、合成ゴム、合成繊維などのさまざまな化学製品が製造できるようになり、現在ではプラスチックや化学肥料、医薬品など多岐にわたる分野で利用されています。
日本においても、1950年代の高度経済成長期には、石油化学産業が大きく発展し、経済成長の重要な要素となりました。
石油は現代の工業製品を支える基礎原料として、また日々の生活を豊かにするエネルギー源として、今日までその役割を果たし続けているのです。
石油が日本のインフラを支える
日本の石油利用の歴史
日本の石油の利用は、江戸時代にさかのぼります。
江戸時代は灯火や薬用など、限られた用途に使われていました。明治時代に入ると、国内での石油採掘が始まり、石油ランプや暖房用の灯油として利用されるようになりました。
1888年(明治21年)、新潟県で日本初の民間石油会社である「日本石油」が設立されました。また、1900年(明治33年)には、石油の精製技術が確立され、ガソリンや灯油などの製品が製造されるようになりました。
大正時代には、自動車や航空機、船舶の普及により、石油製品への需要が急増します。特に第二次世界大戦後の高度経済成長期には、エネルギー源としての石油の重要性が一層高まり、日本の産業発展に不可欠な要素となりました。
1960年代には、石油輸入量が石油生産量を上回り、日本は石油輸入国となりました。
石油と交通
石油は、交通の基盤として日本のインフラ発展に不可欠な役割を果たしてきました。特に自動車産業の進展は、石油需要の増大と密接に関連しています。
20世紀に入ると、自動車は一般家庭にも普及し、ガソリンやディーゼル燃料への需要が急増しました。これにより、交通インフラの拡充が加速し、道路や橋の建設が国内で大規模に行われました。
同時に、航空機や船舶の運用にも石油燃料は欠かせない存在となり、国際貿易や国内外への人々の移動を支えました。
高度経済成長期には、これらの交通インフラの発展が、日本の経済活動の活発化に大きく貢献しました。新しい道路や橋の建設は、地域間の接続を強化し、経済的な機会を増やすとともに、日常生活の利便性を高めました。
石油は、交通の利便性を向上させ、経済の発展を支える上で、欠かせないものとなっています。
石油に支えられた産業
石油は、石油化学工業や化学工業、製紙・繊維工業などの原料として、さまざまな産業を支えています。
石油化学工業は、石油からポリエチレン、ポリプロピレン、合成ゴム、合成繊維などのさまざまな化学製品を製造する産業です。これらの製品は、自動車や家電製品、建築材料など、さまざまな製品に利用されています。化学工業は、石油や天然ガスから肥料、合成樹脂、塗料、洗剤などのさまざまな化学製品を製造する産業です。これらの製品は、私たちの生活に欠かせないものとなっています。
製紙・繊維工業は、石油から石油系パルプや石油系繊維を製造する産業です。これらの製品は、紙や衣類などの製造に利用されています。
また、エネルギー産業では、石油を原料とする火力発電が主力となり、日本の電力需要の大部分を賄っています。さらに、農業や漁業、観光産業でも、燃料や機械の動力源として石油製品が広く使われており、日本経済の成長と繁栄に寄与しています。
オイルショックとエネルギー政策の転換
石油への依存:オイルショックの国内影響
日本は、高度経済成長期以降、石油への依存度が高まっていました。1973年には、石油輸入量が石油生産量を上回り、日本は石油輸入国となりました。
1973年、世界はオイルショックに直面しました。日本は特に影響を受けた国の一つで、石油依存度が高かったため、この時期の石油供給制限は経済に大きな打撃を与えました。
原油価格は3倍に急騰し、突然の石油価格の高騰は、日常生活から産業界に至るまで、広範囲にわたる影響を及ぼしました。自動車の利用制限やエネルギー節約の取り組みが求められ、日本社会に大きな大きな影響を与えました。
1979年のオイルショックでは、原油価格が2倍に急騰し、日本経済は再び不況に陥りました。また、ガソリンの価格が大幅に上昇し、国民生活にも再び大きな影響を与えました。
これらのオイルショックによって、日本のエネルギー安全保障の重要性が認識され、エネルギー政策の転換が図られるようになりました。
エネルギー政策の転換
オイルショックを経験したことで、日本政府はエネルギー政策の見直しを余儀なくされました。1970年代後半から、石油に過度に依存しないエネルギー供給体系の構築に向けた動きが加速しました。
石油の安定供給の確保:石油備蓄の拡充や、多様な産油国からの輸入の拡大など
省エネの推進:省エネ基準の強化や、エネルギー効率の高い製品の普及
エネルギー多様化の推進:石炭や天然ガス、再生可能エネルギーなどの利用の拡大
特に代替エネルギー源への研究開発が強化され、原子力発電の利用拡大や、石炭、天然ガスへの依存度を高める方針が打ち出されました。これは、エネルギー安全保障と経済の持続可能性を確保するための重要な一歩でした。
脱炭素への道筋
21世紀に入り、地球温暖化対策としての脱炭素社会への移行が世界的な課題となりました。そのため、石油の利用を減らし、再生可能エネルギーなどの利用を拡大することが重要となっています。
日本でも、石油を含む化石燃料に頼る現行のエネルギー構造を見直す必要があると認識されています。
日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指しています。そのため、石油の利用を大幅に削減し、再生可能エネルギーの利用を拡大するための対策を進めています。
具体的には、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の拡大、再エネ発電の導入目標の引き上げ、石油火力発電の規制強化、再生可能エネルギーへの投資拡大、省エネルギー技術の推進、電気自動車の普及など、さまざまな対策が進められています。
これらは、地球温暖化対策とエネルギー安全保障の両立を目指す日本の新たな方向性を示しています。
日本の課題
石油の安定供給:依存のリスク
石油は、日本のエネルギー供給の約9割を占める重要なエネルギー資源です。しかし、石油は中東やロシアなどの限られた地域に産出が集中しており、政治・経済情勢の変化や自然災害などのリスクにさらされています。
日本は、石油の大部分を輸入に依存しており、その供給の安定性は国家的な重要課題です。石油の安定供給が経済や日常生活に直結しているため、国際情勢の変動や市場の動きによっては、供給の不安定化が起こり得ます。
2011年の東日本大震災では、原子力発電所の停止に伴い、石油の需要が急増しました。また、2022年のロシアによるウクライナ侵攻では、石油価格が急騰するなど、日本の経済・社会に大きな影響を与えました。
このように、石油への依存は、日本のエネルギー安全保障の脆弱性を高めるリスクがあります。
このようなリスクに対処するため、日本政府は石油備蓄の強化や多様な供給源の確保に努めていますが、エネルギー源の多様化という課題は今後も続くことでしょう。
石油の需給バランスの変化
近年、世界的な人口増加や経済成長に伴い、石油の需要は増加傾向にあります。一方で、石油の供給は、新規の油田の発見が減少していることや、環境対策への対応として、石油の生産量を抑える動きがあることなどから、伸び悩んでいます。
しかし近年、世界的にエネルギー消費の構造が変化しています。特に、再生可能エネルギーの利用拡大や省エネルギー技術の進展により、石油への依存度は徐々に低下しています。
日本でも、石油を含む化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが進んでおり、これにより石油の需給バランスが変わりつつあります。
こうした変化は、エネルギー政策や市場に影響を及ぼし、新たな対応が求められています。
石油価格の動向
石油価格は、世界経済に大きな影響を与える要因の一つです。石油価格は、政治・経済情勢や自然災害、供給と需要のバランス、地政学的な緊張、市場の投機的な動きなどのさまざまな要因によって変動します。
近年では、OPEC(石油輸出国機構)による減産や、米国のシェールオイル生産の拡大などにより、石油価格は安定傾向にあります。
しかし、今後も、石油の需給バランスの変化や、地球温暖化対策への対応などにより、石油価格は変動していく可能性があります。
日本のように石油を輸入に頼る国にとって、価格の変動は国内経済に直接的な影響を及ぼします。これに対応するため、日本は国際市場の動向を注視し、経済活動への影響を最小限に抑えるための策を講じています。
石油とエネルギーの未来
再生可能エネルギーへの移行
現代社会は、環境問題とエネルギー安全保障の課題に直面しています。
石油は、長い間、人類の生活を支える重要なエネルギー資源でした。しかし、近年、石油の安定供給や価格変動のリスク、環境問題などの課題が浮き彫りになっています。
特に環境問題については、石油の燃焼は二酸化炭素などの温室効果ガスを排出する原因となり、地球温暖化につながります。また、石油の採掘や精製、輸送などの過程では、大気汚染や水質汚染などの問題も発生しています。
これに応える形で、石油依存から再生可能エネルギーへの移行が進んでいます。
再生可能エネルギーは、太陽光や風力、水力、地熱などの自然のエネルギーを利用した発電です。石油などの化石燃料に比べて、安定供給が期待でき、環境負荷が少ないことが特徴です。また、近年、再生可能エネルギーの技術開発が進み、コストが低下しています。
そのため現在では、これらのエネルギー源は石油に代わる重要な選択肢となっています。
再生可能エネルギーの将来は、有望とされています。しかし、まだ課題もあります。
例えば、太陽光や風力などの変動性エネルギーについては、蓄電技術の開発が重要です。また、地域によっては、再生可能エネルギーの導入が難しい場合もあります。
これらの課題を克服するためには、技術開発や制度設計などの取り組みが必要となります。
電気自動車の普及と石油需要
電気自動車(EV)は、ガソリン車と異なり、電気で走行する自動車です。ガソリン車は、石油を燃料として使用するため、電気自動車(EV)の普及が進むにつれて、石油への依存が減少し、エネルギー消費構造に変化が生じています。
EVの普及が進むことで、まず自動車の燃料としての石油の使用量が減少します。
これは、特に石油消費の大きい都市部の交通において顕著です。都市部での交通手段としてEVの利用が広がることで、大気汚染の軽減やエネルギーの効率化が期待されています。
日本は、2030年代までに新車販売台数の50%をEV化することを目標としています。
この目標が達成されれば、自動車部門の石油消費量は、2030年度までに2020年度比で約30%減少すると試算されています。また、石油製品の需要も、2030年度までに約10%減少すると試算されています。
このように、EVの普及は、石油の需要に大きな影響を与えることが予想されます。
エネルギーセキュリティと多様な供給源
エネルギーセキュリティとは、エネルギーの安定的な供給を確保することです。エネルギーセキュリティの確保は、経済成長や国民生活の維持にとって不可欠です。
日本は、エネルギー資源の9割以上を輸入に依存しています。
それゆえ、日本はエネルギーセキュリティを確保するため、石油輸入先の多様化に努め、リスク分散を図る必要があります。これにより、特定国への過度な依存を避け、地政学的リスクや市場の変動から生じる影響を分散させることが可能になります。
加えて、天然ガスやバイオマス、太陽光、風力などの再生可能エネルギー源への注目が高まっており、これらは石油の代替として重要な役割を担います。
国際的な石油市場の変動に対する国内の脆弱性を減らすため、日本は石油以外のエネルギー源への依存度を高め、エネルギー供給の安定性を確保しようとしています。
また、エネルギーの多様化は、温室効果ガスの排出削減という環境面での利点も提供します。
このように、エネルギーの多様化は、エネルギーセキュリティの強化だけでなく、持続可能な環境政策の推進にも貢献すると期待されています。
石油は、日本の歴史と深く結びついてきました。
私たちの生活、産業、インフラに大きな影響を与える一方で、環境やエネルギー政策に関する重要な課題も提起しています。
今後、持続可能な社会を目指す中で、石油との向き合い方を再考し、エネルギーの未来を形作る必要があるでしょう。
【参考資料】資源エネルギー庁:みんなで考えよう、エネルギーのこれから
- フードロス削減、楽しい挑戦にしよう!
- 通販サイト「ロスゼロ」では、様々な理由で行先を失くした「食品ロス予備軍」を、その背景やつくり手の想いと共に、たのしく届けています。一緒におトクにおいしく社会貢献しませんか?