最近、春や秋があっという間に過ぎ、夏が長く続くと感じたことはありませんか?
この現象は「二季化」と呼ばれ、私たちの食卓にも静かに影響を及ぼしています。
野菜や果物の旬がずれ、漁獲できる魚が変わり、価格も安定しない──。
“季節を味わう”という日本ならではの食文化が、いま大きな転換期を迎えています。
春秋が消える食卓

四季崩壊と旬の喪失
かつて春・夏・秋・冬と明確に移り変わってきた日本の季節ですが、最近、春や秋がいつの間にか通り過ぎてしまうように感じませんか。これは、気候変動により「四季」が「二季」になっていているという指摘があります。
春や秋という“穏やかな季節”が圧縮され、従来の「四季」のリズムが崩壊することで、私たちは古くから楽しんできた「旬」の感覚を失い始めています。
例えば、以前は春の象徴だったキャベツやタケノコの収穫期が早まったり、逆に夏野菜であるトマトの収穫が秋までずれ込むなど、農作物の生育サイクルが大きく乱れています。農林水産省のデータでも、温暖化の影響でリンゴの着色不良や、ミカンの早熟化といった具体的な品質劣化が報告されているのです。
本来、旬の食材は栄養価が最も高く、価格も手頃でした。しかし、このリズムが崩れると、一年中同じように陳列棚に並ぶ食材が多くなり、私たちは季節の移り変わりを食を通して感じる機会を失ってしまいます。そしてこうした変化は、食の多様性を損なうだけでなく、規格外や余剰品が増えることで「食品ロス」の引き金にもなりえます。
季節の恵みを大切にする社会として、この「四季崩壊」という現実を見据え、旬を改めて意識することが求められています。
真夏日続く食卓変化
かつて日本の夏は暑いといっても、今ほど長く過酷ではありませんでした。しかし、気象庁の長期的なデータが示す通り、日本では、過去100年で年平均気温が100年あたり約1.4℃上昇しており、特に夏期には基準値に対して+2.36℃という偏差を記録した年もあります。
気温が上がることで「真夏日(30℃以上)」や「猛暑日(35℃以上)」の出現頻度も増加傾向にあります。「真夏日」の日数が都市部を中心に著しく増加し、夏が極端に長くなっているのです。
この「夏長」の傾向は、私たちの食卓の風景を一変させました。まず、酷暑で食欲が落ち、調理も億劫になりがちです。その結果、火を使わない冷たい麺類や加工品への依存度が高まり、栄養バランスが偏りやすくなっています。
さらに深刻なのは、食材の「鮮度保持」が極めて難しくなったことです。流通の過程で野菜や果物が傷みやすくなり、家庭でも冷蔵庫の負荷が増加し、食材の劣化スピードが速まっています。これは、まだ食べられるものを廃棄してしまう「食品ロス」の増加に直結する大問題です。
食中毒のリスクも高まるため、私たちは、「コールドチェーン」の重要性を改めて認識し、食材の選び方から保存、調理に至るまで、全てを「長すぎる夏」に対応させる必要に迫られています。
春秋短縮と食文化衰退
二季化の進行は、単に暑い季節が長引くだけではなく、私たちにとって心地よい「春」と「秋」という季節が、極端に短くなっていることを意味します。
これらの“季節の移ろい”は、古くから日本の食文化に深く根づき、旬の味覚や行事食といった、四季折々の豊かさを形づくってきました。
しかし今、その春と秋が急速に姿を消しつつあります。この変化は目立たないかもしれませんが、日本の繊細で美しい食文化に、静かに、そして確実に大きな影響を及ぼし始めています。
例えば、桜餅や柏餅といった春の行事食、松茸や新米といった秋の味覚を楽しむ期間が物理的に短くなり、気づいた頃には次の季節に移行している、という状況が生まれています。
伝統的な食文化は、その土地の気候や農産物のサイクルに深く根ざして育まれてきました。しかし、気候変動の影響で、春や秋にしか採れない山菜や果物の収穫が不安定になり、市場に出回らないケースが増えています。その結果、「花見での食事」や「紅葉狩りの旬の味覚」といった歳時記的な食体験が減少し、家庭や地域に受け継がれてきた““味わい”だけでなく“つながり”や“豊かさ”までもが失われつつあります。
食は単なる栄養補給ではなく、文化であり、記憶です。このままでは、短縮された季節の中で、多くの家庭や地域に残る貴重な「食の知恵」や「旬を慈しむ心」までもが衰退してしまうことが危惧されます。
夏長冬短の作物事情

高温障害と生育不順
長すぎる夏、そして容赦なく続く猛暑日は、人間だけでなく畑の農作物にも深刻なダメージを与えています。それが「高温障害」です。
作物が健全に育つには適温があり、連日の猛暑がその限界を超えてしまうと、作物の細胞が壊れたり、重要な光合成の働きが乱れたりします。
例えば、米の登熟期に高温が続くと、お米が白く濁ってしまう「白未熟粒」が増加し、品質や食味が大きく低下してしまいます。また、野菜では、ホウレンソウなどの葉物野菜が暑さで葉焼けを起こしたり、キャベツが結球しなかったりと、様々な「生育不順」が発生しています。トマトやナスでは晴天日数の増加とともに果実の日焼けや実割れが増え、市場規格に達しない“規格外品”の割合が上がるケースが報告されています。
こうした高温下では農作業も制約され、収穫機の稼働時間や労働条件も影響を受けます。これは農家の方々の努力だけではどうにもならない、地球温暖化による構造的な問題なのです。
私たちがスーパーで目にする、少し形が崩れていたり、色づきが悪い野菜は、この過酷な気候に耐えようとした作物の「頑張りの証」かもしれませんが、経済的には「規格外」として扱われ、結果的に食品ロスの大きな原因の一つとなっています。
私たち消費者の食卓に並ぶ「安心・旬の味わい」を守るためにも、気候変動を前提にした“高温対応”型の栽培・流通がこれからますます重要になってくるのではないでしょうか。
収穫期ずれと作柄変動
最近、「旬の野菜が出回る時期が年によって違う」と感じたことはありませんか?
これは、気候の変化によって起こる「収穫期のずれ」の典型です。気温が高くなると作物の成長スピードが早まったり、逆に天候が不安定で遅れたりして、収穫のタイミングを読むのがとても難しくなっています。
昔は、季節が比較的一定だったため、農家は経験をもとに「この時期に種をまけば、この頃に収穫できる」と計画を立てることが出来ました。しかし今は、猛暑や大雨、長引く高温などの影響で、毎年作物の育ち方が変わるようになっているのです。この不安定さが「作柄変動」という形で現れ、ある年は豊作で価格が暴落する一方、翌年は不作で価格が急騰するなど、市場が非常に不安定になっているのです。
また、夏が長くなり、春や秋が短くなる「夏長冬短」の気候も影響しています。たとえば稲の場合、以前は9~10月が収穫時期でしたが、最近は8月から刈り取りが始まる地域もあります。こうした変化は、人手や機械、運送の予定がずれる原因にもなり、農家の負担を増やしています。
この予測の難しい状況は、流通を担う企業にとっても大きな課題で、急な収穫量の変化に対応するための「需要予測」が困難になり、在庫の過不足が生じやすくなっています。
この不安定な作柄変動は、最終的には私たちの食卓の価格にも直結し、家計を圧迫する一因となっているのです。
農業対策と環境負荷
日本では平均気温上昇に伴う影響を踏まえ、農林水産省が「1.26℃/100年」の温暖化傾向を警告しています。
この気候変動という避けられない課題に直面し、日本の農業現場ではさまざまな「農業対策」が進められています。例えば、高温に強い品種への切り替えや、施設園芸での温度管理技術の導入、遮光ネットの利用などが挙げられます。
しかしこうした対策にはエネルギーコストや資材投入・資源使用量の増加という「環境負荷」を生むというジレンマも抱えています。
例えば、ビニールハウスや温室での温度管理には、冷暖房のための「エネルギーコスト」が大量にかかります。特に夏場の冷房設備を稼働させることは、結果的にCO2排出量を増やし、地球温暖化をさらに加速させるという悪循環につながりかねません。
また、異常気象による病害虫の増加に対応するため、農薬の使用頻度が増えれば、これもまた生態系や土壌への負荷となります。
だからこそ、循環型の農業・省エネ栽培・アップサイクル資材の活用といった、環境負荷低減を意識した“気候適応+サステナブル”なアプローチが求められているのです。そして、農業が食料を支えると同時に地球環境を守るものであるという視点が視点が不可欠なのです。
また、私たちが、単に安くて形の良い農産物を求めるだけでなく、その裏側にある農家の方々の努力や、環境に配慮した栽培方法に正当な価値を見出す「消費者意識」を持つことが、この課題を乗り越える鍵となります。
家畜・水産に迫る危機

漁獲量減少と水温上昇
食卓に欠かせない魚介類にも、二季化の波は深刻な影響を与えています。その最大の原因は、地球規模での水温上昇です。近年、日本近海の海面水温は100年間で約+1.07℃の上昇が確認されています。
海の表面水温が上昇すると、これまで日本近海で獲れていた魚種の生息域が変化し、温かい海域を好む魚が北上したり、冷たい海域を好む魚が南の海から姿を消したり、冷水性プランクトンの減少や分布の変化といった異変が起きています。
結果として、漁獲量が安定せず、魚の「重さ」「数」が減少している魚種もあります。サケやサンマといった主要な魚種の漁獲量が、長期的に見て大幅に減少していることが報告されています。特にサンマは、高水温の影響で本来の漁場へ回遊するルートが変わってしまい、漁獲量が激減しています。漁師さんたちは遠方まで漁に出ざるを得なくなり、その結果、燃料代などのエネルギーコストが増加し、魚の価格にも跳ね返ってきています。
こうした状況は、食卓に並ぶ魚介類の種類や価格にも影響を与え、家庭で馴染んできた「旬の魚」が手に入りにくくなる可能性も出てきています。このままでは、日本の豊かな魚食文化を維持していくことが難しくなります。
海の変化は遠い話ではなく、私たちの“毎日の魚の盛り付け”にも直結しているのです。
猛暑日続く家畜の生育不順
日本国内では、夏の猛暑日が増加傾向にあり、気温35℃以上の日数が増えることで家畜への熱ストレスが懸念されています。
牛や豚、鶏といった家畜は、私たち人間と同様に、暑すぎると体調を崩したり、食欲が落ちたりします。これが「高温障害」であり、結果として生育不順を引き起こし、肉や卵、牛乳といった畜産物の生産性に深刻な影響を及ぼしています。
例えば、酪農の現場では、乳牛が暑さで体力を消耗し、乳量が低下したり、乳質が悪化したりする問題が顕在化しています。また、豚や鶏も、暑さによるストレスで病気にかかりやすくなったり、繁殖能力が低下したりします。農家の方々は、牛舎に扇風機やミスト設備を導入したり、冷房をつけたりといった対策を必死に進めていますが、それには膨大なエネルギーコストがかかり、経営を圧迫しています。
このコスト増は、最終的にスーパーの店頭に並ぶ畜産物の価格にも影響を与え、私たちの食卓に負担をかけることになります。食べる側としても、安心して味わえる畜産品を維持するためには、家畜の環境を整える「気候対応」の視点を持つことが重要です。
飼料不足と食料自給率
畜産物の生産を語る上で欠かせないのが「飼料」です。
日本の畜産の多くは、トウモロコシや大豆粕などの飼料を海外からの輸入に頼っています。二季化が進む中で世界各地で異常気象が頻発し、主要な穀物生産国での作柄変動や不作が起こると、飼料の国際価格が急騰したり、供給が不安定になったりします。飼料の価格が上がれば、当然、牛肉や豚肉、卵の生産コストも上がり、私たちの家計を直撃します。
この問題は、日本の「食料自給率」の低さと密接に関わっています。例えば日本の食料自給率(カロリーベース)は40%前後と低く、輸入品に依存する畜産が危機に瀕することは、そのまま日本の食料安全保障を揺るがすことにつながります。
そのため畜産の飼料も含めた「飼料自給」の向上が求められています。
私たちが普段手にする肉・乳製品を長く安定して受け取るためには、飼料を含むサプライチェーン全体を見直すこと、そして「地産地消」「飼料作物の多様化」「アップサイクル飼料」「サーキュラー(循環型)な仕組みの強化」など、足元から持続可能性を高めるための対策が、非常に重要になってくるでしょう。
私たちの食卓のまわりでは、気候変動による変化が静かに、しかし確実に進んでいます。
野菜や魚、家畜に起きているちょっとした“違和感”は、その流れの一端かもしれません。
とはいえ、まだ未来は決まっているわけではありません。どんな食を守り、どんな選択をしていくのか。
ここからの私たちの行動が、これからの食卓を形づくっていきます。
後半では、こうした変化が私たちの暮らしや食の価格、食品ロスにどう影響していくのかを、もう少し丁寧に見ていきます。
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