SDGsの17の目標のうち、15番目は「陸の豊かさを守ろう」です。
私たちの食料や衣類になる植物を育ててくれる土。
陸の豊かさは、私たち人間だけでなく植物や動物たちの豊かさでもあります。
しかし、実は今、地球の土壌が危機に直面しているといいます。
母なる大地がどのような状況にあるのか、そしてどういった対策が取られているのか、一緒に学んでいきましょう。
大切なはたらきをもつ土壌の今とは?
健康な土の中には、もともと微生物や塩分、栄養素などが含まれています。
こうした土壌中の生物や成分は、植物が育つのに役立ちます。
また、植物が土の中にしっかりと根を張り水分を蓄えることで、風や雨水による土の流出や浸食を防いでくれています。
世界の土壌の3分の1が危機的な状況に
しかし、国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の土壌のうち約3分の1にあたる33%が危機的な状況にあるといいます。危機的な状況とは、土壌の浸食、塩分や栄養素の枯渇、化学物質による汚染、生態系の破壊などを意味します。
つまり、植物が育つのに適さない土壌になってしまっているのです。
それが世界の約3分の1にも及ぶということですから、看過できない量だといえます。
このまま土壌の劣化が続けば、2050年には耕作に適した土地が1960年代と比べて75%も減ってしまうと考えられています。
世界の人口は増え続けているのに、耕作できる土地がどんどん減っていったらどうなるでしょうか?
食料の生産量が足りなくなるだろうということが、簡単に想像できますね。
(参考:国連食糧農業機関)
土壌にはCO2を吸収するはたらきも
土壌には、地球温暖化の原因となるCO2を吸収するはたらきもあります。国連食料農業機関(FAO)は、2015年に世界中の土壌に含まれる炭素の量を示すマップを作成しました。
それによると、土壌に含まれるCO2量は6,800億トン。
大気中のCO2のほぼ2倍のCO2量が土の中に含まれているのです。
さらに、土壌中のCO2の約6割がロシア、カナダ、米国、中国、ブラジルなどに分布しているとのことです。
つまり、こうした国々では豊かな土壌を維持する重要性が他の地域より高いといえるでしょう。
参考のために示すと、日本全体で2019年度に排出されたCO2の量は12億1,300万トンでした。
世界全体で2018年に排出されたCO2は約335億トン。
比べると、土壌に含まれるCO2量がどれだけ大きいか想像できますね。
土壌の劣化が進むと、土の中に蓄えられているCO2が大気に放出される可能性も心配されています。
ちなみに、2015年はFAOが土壌の大切さを訴えた年で「国際土壌年」とされています。
土壌が弱ってしまう原因とは?
土壌が弱ってしまう原因は地域によって違います。
少し古いですが、1999年の環境省の『環境白書』によると次のとおりです。
ヒマラヤやインド、スリランカでは水による土壌の浸食が特に激しく、草木のなくなった傾斜地で起こりやすいとのことです。
また、風による侵食は中国の西部やモンゴル、中央アジアといった乾燥地域で広がっています。
こうした水や風による浸食は、直接的には自然の力による浸食です。
しかし、土が風雨にさらされる状況をつくるのは人間活動によるところが大きいとされています。
例えば、過度の森林伐採や放牧などによって草木がなくなり土壌がむき出しになることで、土壌劣化が進みやすくなると考えられています。
一方、化学的な土壌劣化もアジア太平洋地域で起こっているとされています。
化学的な土壌の劣化とは、塩分の体積や栄養不足、酸性化、化学物質による汚染などです。
中でも特に深刻なのは、塩分の多い地下水などで農業灌漑を行うことで、乾いた後に塩分が凝縮してしまうケースだといいます。
(参考:環境省『平成11年度 環境白書』)
土壌を再生させる「リジェネラティブ農業」
こうした土壌の劣化を防ぐ農業のあり方を
「リジェネラティブ農業(環境再生型有機農業)」といいます。
農薬や化学肥料を使いすぎず、土壌の中の微生物の力で作物を収穫できるようにする農業のあり方です。
自然の回復力で作物を育てる昔ながらの農業だといえます。
リジェネラティブ農業には時間や支援が必要
環境にやさしいリジェネラティブ農業ですが、一度弱った土壌が回復するのには時間がかかります。
微生物が土地を回復するのに、一般的に3年間はかかるとされています。
農家のみなさんの立場で考えると、3年間も収穫ができないというのは深刻な問題です。
そこで、土壌劣化に問題意識をもつ世界的な大企業の間では、農家と長期契約を結んでリジェネラティブ農業への移行を応援する動きが生まれてきています。
欧米では、現在の農業のあり方では将来にわたって食料を作り出すことが難しいと考える食品企業が増えています。
食料をこれからもずっと調達でき、企業経営を持続可能にするためにも、リジェネラティブ農業への転換が重要だと考えているのです。
そこで、農家にリジェネラティブ農業を行ってもらうために、技術的・経済的なサポートを始めています。
(参考:日経BP 夫馬賢治著『データでわかる 2030年地球のすがた』)
パタゴニアも力を入れるリジェネラティブ・オーガニック
リジェネラティブ農業に特に力を入れているのが、アウトドア用品メーカーのパタゴニアです。
食料だけでなく綿花などの栽培が工業化してしまったことで、自然に大きな負担をかけているとして、リジェネラティブ農業への転換を急いでいます。
パタゴニアは、分業という考え方を改めることが自然に回帰した農業を営むうえで重要だとしています。
例えば、農業と畜産業を一緒に行うと家畜の排せつ物が肥料になり、作物が育ち、それが家畜のエサになるという循環が生まれます。
これは古来の農業と畜産のあり方であり、効率を求めてそれぞれを別の産業としてしまったために、土壌劣化などの弊害が生まれていると指摘しています。
25年前からリジェネラティブ・オーガニックのみを使用
パタゴニアは、1996年からリジェネラティブな方法でつくられたコットンのみで衣類をつくっています。
現在は、550のリジェネラティブ農業を行う農家と契約し、環境に負担をかけないコットンの栽培のあり方をさらに追及しています。
リジェネラティブ農業においては、農薬を使わないかわりに、地面をおおって雑草を防ぐ「被覆植物」を植えます。
また、コンポストを活用した有機肥料を使ったり、周期的に作物の種類や植える場所を変えたりして、土壌の再生を促します。
12月5日は「世界土壌デー」
普段の暮らしでは、なかなか土に触れる機会に少なくなってしまいましたが、土壌は私たちの衣食住を支える大切な存在です。
消費者である私たちも、リジェネラティブ農業でつくられた食物や衣料を
選ぶことで間接的に応援することができます。
12月5日はFAOが定めた「世界土壌デー」です。
この機会に、みなさんも土と触れ合ってみてはいかがでしょうか。