こんにちは、サステナブルライターの山下です。
「森をつくる農業」といわれるアグロフォレストリー。
農作物だけでなく森を育む農法とは、一体どのようなものなのでしょうか。
また、アグロフォレストリーが注目される背景には何があるのでしょうか。
今回は、アグロフォレストリーとは何か、そのメリットや課題についてわかりやすく解説します。
アグロフォレストリーとは
アグロフォレストリーとは、農業(アグリカルチャー)と林業(フォレストリー)とを組み合わせた言葉です。
では、農業と林業とを組み合わせるということは、具体的にどういうことなのでしょうか。
アグロフォレストリーを理解するには、これまでの畑のイメージを覆す必要があります。
というのも、アグロフォレストリーは一見、林の中で農作物を育てているように見えるからです。
多くの方が思い浮かべる「畑」とは、木々のない平らな農地に、単一もしくは数種類の農作物が植えられている状態ではないでしょうか。
しかし、アグロフォレストリーでは、さまざまな種類の野菜や果樹などを同時に育てるのです。
具体例を挙げて説明しましょう。
ブラジルのトメアスーでは、コショウとバナナ、カカオ、アサイー、マホガニーなどを一つの農場で育てています。
これらの農作物は、それぞれ育つスピードが異なります。
例えば、コショウやバナナは比較的早く成長し、2〜3年で収穫できるようになります。
一方で、カカオは3年目から実をつけ始め、マホガニーはさらに時間をかけて成長していきます。
3年目以降になると、コショウやバナナの収量は落ちますが、それらに代わってカカオの生産量が上がっていきます。
さらに年月が経てば、家具や楽器の材料になるマホガニーが大木に育ち、新たな収入源となります。
このように、アグロフォレストリーでは、成長スピードの異なるさまざまな種類の作物を同じ農場で育てることで、単一の農作物による収入に頼らないという特徴があります。
こうすることで、ある年に、仮にコショウの生産量が少なかったとしても、別の農作物の生産によって収入を補うことができるようになるのです。
(参考:[JICA-Netライブラリ]アグロフォレストリー 森をつくる農業 ~アマゾン熱帯林との共存~(ダイジェスト版))
単一栽培の課題をアグロフォレストリーで解決
さらに、アグロフォレストリーには、単一の種類の農作物を育てる「単一栽培」よりも環境に与える影響が少ないと考えられています。
単一栽培(モノカルチャー)とは、単一品種の作物だけを育てる農業の形態です。
単一栽培が問題視される一因として、プランテーションのような大規模農場でサトウキビやゴムなど換金性の高い作物だけが集中して栽培された結果、野生の植物や現地で長年育てられてきた原生種などが急速に失われつつあるということが挙げられます。
それだけでなく、一種類の農作物だけを育てていると、病害虫の発生や気候によってその農作物が収穫できなかった場合、農家の収入が激減してしまうという深刻な事態に陥ることも考えられます。
これに対して、アグロフォレストリーには、農場の生物多様性を保ちながら農家の収入を確保できるメリットがあるとされているのです。
(参考:一般財団法人環境イノベーション情報機構
『環境用語:モノカルチャー』)
アグロフォレストリーの課題
一方で、アグロフォレストリーには課題もあります。
まず、アグロフォレストリーのシステムを作り上げるのに時間がかかるという点です。
アグロフォレストリーには、成長スピードの早い作物から遅い作物まで含まれます。
そのため、数年間ではなく、10年間以上のスパンでシステムを構築する必要があります。
作付けから収穫までのサイクルが短い単一栽培と比べ、時間と手間がかかることが課題の一つだとされているのです。
それに加えて、木々の間で農作物を育てることから、大きな農業用機械の使用が難しいとされています。
農業は、非常に労力を必要とする仕事です。
すべて人の手で行わなければならないとなると、大変な手間がかかってしまうのです。
農作物を育てるのにかかった手間は、販売するコストに上乗せされます。
したがって、アグロフォレストリーによる農作物はそうでないものよりコストアップする可能性があり、価格競争力の面で劣ってしまうことも懸念されるでしょう。
アグロフォレストリーを促進するために
そこで、アグロフォレストリーによって育てられた農作物による商品には、「環境に配慮された方法で生産された商品である」という付加価値を与える販売方法がとられているようです。
例えば、アグロフォレストリーによるカカオで作られたチョコレートであれば、カカオが育てられている背景の物語をアピールし、生物多様性や持続可能性に配慮されているという商品の価値を伝えることが大切になるでしょう。
そうすることで「同じチョコレートを食べるなら、より環境にやさしい方法で作られたものを選びたい」という消費者へ強く訴求することができます。
消費者である私たちがより環境に配慮された農法を応援するには、買い物の際にしっかりと選ぶことがとても重要です。
私たちの消費と生産との間には大きな隔たりがあるように感じられます。
「私たちの買い物に世界を変えるインパクトがあるのか?」
「私一人がアクションを起こしても焼け石に水では?」
と、考えてしまう気持ちはよくわかります。
しかし、逆に考えると、これまでの私たちの行動の積み重ねが現在の状況をつくり、環境に大きな負荷を与えていることは間違いありません。
今、私たちがすべきことは、消費と生産との間の大きな隔たりを想像し、そこにどのような課題が潜んでいるのかを知ろうとすることではないでしょうか。
自分自身の眼前に見えている問題だけでなく、私たちの暮らしがどのような出来事によって支えられているのかについても想像力を巡らすことが、これまで以上に求められているのです。