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【江戸時代の生活の知恵】食品の保存方法はどうしていた?

公開日: 更新日:2024.01.12
江戸時代の生活


現代の私たちが冷蔵庫や冷凍庫といった便利な保存技術を当たり前に使用する中で、かつての日本人はどのようにして食材を鮮度のまま保存していたのでしょうか

驚くべきことに、江戸時代の日常生活には、食材の持ち味を最大限に生かす知恵や技術が詰まっています。

食の歴史や文化に触れることで、サステナビリティの視点から現代の食生活を再考するヒントを得ることができるかもしれません。


江戸時代の食材保存技術と風習

江戸時代の乾物

保存食の多様性とその特徴

江戸時代の日本では、現代の冷蔵技術がないため、さまざまな方法で食材を保存していました。

主要な保存方法として「乾物」や「漬物」が挙げられます。
乾物は、食材を日光や風で乾燥させることにより、腐敗を防ぎ、長期間保存できる特長があります。対照的に、漬物は塩、味噌、醤油などの調味料で食材を漬け、風味を変えて保存します。

この保存方法は、食材の鮮度を保ちながら、新しい風味や栄養価を高める効果ももたらします。

季節と食材保存の密接な関連性

日本の四季折々の風情は、食材の保存方法にも大きく影響を与えていました。

の新芽や若菜は、その鮮度が命であり、速やかに消費されるか、適切な方法で保存される必要がありました。
に収穫される豊富な野菜や果物は、梅干しや塩漬けなどの短期的な保存法が主流でした。
一方、に収穫される食材は、冬を越すための乾物や漬物として長期保存され、寒さの中でじっくりと熟成されていました。


風習と食のリズムの相互作用

江戸時代の人々の生活には、季節や風習が深く根付いており、これが食のリズムや保存方法にも影響を与えていました。

正月にはお節料理を中心に、春は花見の宴や新緑の季節の食材を味わい、夏は祭りや盆踊り、秋には月見や新米を楽しむといったサイクルがありました。

これらの風習や行事ごとに、特定の食材が一斉に保存され、それに伴う保存技術が発展していったことが伺えます。


江戸時代の米の保存技術とその背景

江戸時代の米

食文化としての米の位置づけ

江戸時代、日本の食生活における米の位置づけは非常に特異でした。

一般的な家庭では毎日白米を食べる習慣は少なく、都市部では特に、雑穀や麦を混ぜて炊いた食事が主流でした。

これは、当時の米の生産量が限られていたことや、保存の難しさからくるもので、純白の米は行事や祭りの際の特別なごちそうとして位置づけられていました。


米の保存のための日常的工夫

湿度が高い日本の夏は、米を直接風通しの良い場所に保管するだけでは病害虫の発生が懸念されました。そのため江戸の人々は、米を保存する際に様々な工夫を行っていました。

具体的には、米を小さな麻袋に入れ、天日でよく干してから大きな木製の容器や甕に入れて保存していました。また、保存容器の底に薄く塩を敷くことで湿気を取り除き、虫の発生を抑える工夫もされていました。

このように、手間暇をかけて大切に保存された米は、一年を通じて家族の食生活を支えていました。


非常食としての干し飯

干し飯は、ご飯を乾燥させることで長期保存する方法です。江戸時代には、非常食としても利用され、戦や飢饉の際には貴重な食料となっていました。

製法はシンプルで、炊きたてのご飯を薄く広げ、日光でじっくり乾燥させます。乾燥が完了したら、冷暗所で保存します。
食べる際には、水に浸して戻し、蒸すか炊き直すことで、もとのふっくらとしたご飯の状態に戻せます。

干し飯は、独特の風味があり、多くの人々に愛されています。


米の保存と経済・社会

江戸時代、米はただの食材以上の意味を持っていました。

実は、米は経済の中心でもあり、時には「お米=お金」としての役割も果たしていました。大名や武士の年収は「石高」として計測され、これは一年に生産できる米の量を指すものでした。
また、新米の出回る時期には、米価の変動が経済全体に影響を及ぼすこともありました。

このように、米の保存技術はただの食生活だけでなく、経済や社会全体にも大きな影響を持っていたのです。


江戸時代の味噌・醤油の保存法とその文化

味噌

味噌・醤油の製造技術

江戸時代、味噌や醤油は食文化の中核を成す調味料でした。これらの製法は長い伝統を経て洗練されてきました。

味噌の製造は大豆、塩、そして麹(こうじ)を発酵させることで行われました。特定の温度で管理された環境下で、数ヶ月から1年以上もの長い時間をかけて発酵させることで、深い風味と旨味が生まれるのです。

一方、醤油は大豆と小麦を使用し、これもまた特定の環境での発酵が求められました。江戸時代には、味の深みや色合いを増すための製法が多数研究され、多様な味噌や醤油が生まれました。

これらの違いは、地域の気候、水質、使用される原材料の違い、そしてそれぞれの地域の食文化と深く結びついていました


保存の方法と安全性の確保

味噌や醤油の保存は、当時の技術や知識を駆使した手法が用いられていました。

味噌は木製の樽や壷に詰められ、その表面には塩を振りかけることで腐敗を防ぎました。また、容器の蓋をしっかりと閉め、冷暗所で保存することで品質を維持していました。

醤油の場合も、焼き締めた陶器の壷に保管し、風通しの良い場所に置くことで醤油の品質を長期間保持していました。

これらの保存法は、腐敗や品質劣化を防ぐだけでなく、風味や旨味をさらに深める役割も果たしていました。


江戸時代の野菜・果物・魚の保存技術とその背景

江戸時代の生活の知恵

乾物&干物の製法と文化

江戸時代、冷蔵技術の未発達な中で、食材の保存には乾燥が一般的に利用されました。野菜や果物を「乾物」として、魚を「干物」として保存する方法は、古来からの伝統的技法であり、特に日本の湿度の高い気候を考慮すると非常に効果的でした。

食材を日光に当てて自然に乾燥させることで、腐敗の原因となる水分を取り除き、長期保存を可能にしました。干し柿や干ししいたけ、そして干し魚など、これらの保存食はそのままの形で食されることも多く、独特の風味が人々の舌を楽しませました。

この保存法は、質素ながらも豊かな食文化を支え、季節を問わずさまざまな食材を楽しむ土壌を提供していたのです。


漬物の多様性と地域色

日本の漬物

漬物は、江戸時代を通じて家庭の食卓に欠かせない存在でした。野菜を塩や米ぬか、味噌などで漬け込むことで、長期間の保存が可能となり、また独特の味わいを楽しむことができました。

各地域ごとに、使用する野菜や調味料、漬け方には独特の特色があり、これがその地域の歴史や気候、風土を反映したものとなっていました。例えば、関西のしば漬け、関東のたくあん、九州のカブラヅケなど、その多様性は日本の豊かな食文化を物語っています。

漬物は、季節の変わり目や収穫のピーク時に大量に作られ、一年を通じて家族の食卓を彩っていたのです。


塩漬けの役割と日常生活

塩は、古代より食材を保存するための重要な手段として用いられてきました。特に、江戸時代において魚や海産物の保存には欠かせないものとなっていました。

新鮮な魚をすぐに食べることができない場合や、大量に獲れた魚を保存するために、魚を塩でまぶして保存する「塩漬け」の方法が取られました。この塩漬けにより、魚の鮮度を維持し、また風味や旨味を高めることができました。

また、塩は野菜の保存にも用いられ、特に夏の野菜を冬まで保存するための重要な手段となっていました。

このように、塩漬けは、江戸時代の人々の日常生活に深く根付いた保存法として活用されていたのです。


​保存のための煮詰め料理

煮詰め料理は、食材を煮詰めて水分を減少させ、保存性を高める技法です。主に、野菜や果物、魚や肉などが用いられます。

基本的なレシピとしては、まず食材を小さく切り、鍋に砂糖、醤油、みりん、酒などの調味料とともに入れ、弱火でじっくり煮詰める方法が一般的です。煮詰めすぎると、食材が固くなったり、栄養が失われるデメリットもあるため、適切な火加減や時間を見極めることが求められました。

食材を煮詰めることで、不要な水分が飛び、うま味成分や栄養が凝縮されます。また水分が飛ぶことで、食材に含まれる糖分や塩分が濃縮され、微生物の繁殖が抑制されます。これにより、煮詰め料理は数日から数週間、冷暗所での保存が可能となります。


​​江戸の冷蔵技術と氷室

氷室

氷室の構造と科学的背景

現代の冷蔵技術とは異なり、江戸時代には「氷室」という独特の冷蔵方法が存在していました。

氷室は、冬に採取した氷を年間を通じて保存するための特別な構造を持つ施設で、地下深く掘られた石や土でできた部屋でした。この構造は、外部の温度変化から内部を守り、氷を長期間溶けずに保つための工夫が盛り込まれていました。太陽の直射日光を避け、湿度を調整することで、氷の状態を最適に保っていました。

これは、当時の日本の気候や環境を活かした、科学的な知恵の産物と言えるでしょう。


暮らしと氷室の関連性

江戸時代の日常生活において、氷室は高級な冷蔵技術として扱われ、特に夏の暮らしには欠かせませんでした。

氷室から取り出される氷は、食材の鮮度を保つ冷却材や、暑い日の涼を求める氷菓子作りなど、さまざまな用途に使われました。大名や富豪の家では、夏場にはこの氷室から取り出した氷で作る氷菓子が供されることも珍しくありませんでした。

また、氷室を所有していることは、その家の経済力や社会的地位を示すものとしても注目されていたのです。


江戸時代の食材保鮮とコスト

氷室は、食材の鮮度を保つための重要な存在でしたが、それにはかなりのコストと労力が必要でした。

毎年、冬になると労働者たちが集まり、山間部で氷を採取する大仕事が行われていました。その後、氷室に持ち帰られ、適切な管理のもとで保存されました。氷室の維持には、常に一定の温度や湿度を保つための管理が欠かせず、これには大きなコストがかかっていました。

そのため、このような冷蔵技術は、都市部の富裕層や大名など限られた人々だけのものであり、庶民の日常生活にはなかなか普及しなかったのです。



江戸時代の日本人は、限られた技術と環境の中で、食材の鮮度を保つための独自の方法を編み出し、日々の生活を豊かにしてきました。
乾物、漬物、塩漬け、氷室といった保存方法は、自然と共生しながら持続可能な生活を実践していた証と言えます。

現代においても、食品の無駄を減らすためや環境負荷を低減する観点から、これらの古き良き保存方法を再評価し、取り入れる価値があるでしょう。
私たちの先人たちの知恵と技術は、今のサステナブルな生活のヒントとして、非常に参考になります。




(このブログの一部画像はBing Image Creatorを使って作成しています。)

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この記事を書いた人

中川

環境開発学を専攻し、大学時代に交換留学で訪れた北欧でエコライフに目覚めました。帰国後、国内外のエコプロジェクトに参加し、サステナブルな食文化や食品ロス削減のヒントを発信しています。

監修者

文 美月

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は運動と長風呂。