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高騰する魚の値段、食卓の危機を回避するために

公開日: 更新日:2024.02.16
高騰する魚の値段

私たちの食卓に欠かせない魚介類。しかし、その価格は近年急激に上昇し、私たちの生活に影響を及ぼしています。

魚の消費量が減少することで、私たちの健康に影響を与える可能性があります

では、なぜ魚の値段は高騰しているのでしょうか?また、世界の水産資源はどうなっているのでしょう?


魚の値段、なぜ上がる?

需要の増加

需要の増加

近年、私たちの食卓に上がる魚の価格が着実に上昇しています。その理由のひとつとして、需要の増加が挙げられます。

世界の人口は増加傾向にあり、それに伴って魚の需要も増加しています。経済成長を遂げている国々では、人々の収入増加と共に、質の高いタンパク源としての魚介類への関心が高まっています。
特に中国の経済成長に伴い、中国の魚の需要は急増しています。中国は世界最大の水産物輸入国であり、その需要を満たすために、世界各地の水産資源が争奪されています。

この需要増加は、供給が追いつかない状況を生み出し、結果として価格が上昇しているのです。


円安の影響

円安がもたらす影響も見過ごせません。

日本は多くの魚介類を輸入に頼っており、円安はこれらの商品の輸入コストを押し上げることになります。
また、漁業者にとって、円安は燃料や漁具などの輸入品のコスト増加につながります。これらの材料や設備の多くは外国からの輸入に頼っており、円安によりこれらのコストが上昇すると、漁業の運営費用が増大します。
さらに養殖業者もまた、円安の影響を受けます。養殖魚の飼料や技術設備の多くが輸入に依存しているため、円安による輸入コストの上昇は養殖コストを増加させます。

これらのコスト増加は魚の価格に反映され、消費者にも影響を与えることになります。


漁獲量の減少

そして、乱獲や気候変動などの影響により、世界の水産資源は減少しています。

乱獲とは、漁獲量を過剰に増やすことであり、魚の資源量を枯渇させる原因となります。気候変動は、海水温の上昇や海面上昇などの影響により、魚の生息環境を変化させ、漁獲量を減少させる原因となります。

特に人気の高いマグロなどの大型回遊魚の漁獲量は、近年大きく減少しています。また、日本近海でのさんまや鮭の不漁は深刻です。これらの魚種は人気が高いため、価格上昇の影響は大きくなっています。

漁獲量の減少は、必然的に価格の上昇につながります。

また漁獲量の減少は、単に供給が需要に追いつかないという問題だけでなく、生態系全体のバランスを崩す可能性もあります。


日本と世界

輸入に頼る日本

減少する世界の水産資源

世界の水産資源は、さまざまな要因によって減少の一途を辿っています。

FAO(国連食糧農業機関)の調査によると、世界の漁獲量は1990年代以降、減少傾向にあります。
2020年の世界の漁獲量は、約9,200万トンで、ピーク時の1996年(約1億1,600万トン)に比べて約2,400万トン減少しています。特に、大型回遊魚の漁獲量は、近年大きく減少しています。

例えば、サンマの漁獲量は、1980年代には年間100万トンを超えていましたが、2020年には約30万トンにまで減少しています。また、マグロの漁獲量も、1980年代には年間200万トンを超えていましたが、2020年には約100万トンにまで減少しています。

特に、過剰漁獲による影響が大きく、持続可能な水産業の実現が急務とされています。多くの漁場では、特定の魚種の乱獲により、生態系のバランスが崩れつつあります
例えば、北大西洋の鰤(ぶり)や地中海の鯛のような人気魚種は、漁獲量が持続可能なレベルを超えており、その数が著しく減少しています。

このような状況は、将来的に水産資源の枯渇につながり、世界的な食糧危機を招く可能性があります。


輸入に頼る日本

日本は、世界有数の魚介類消費国であり、国民1人あたりの年間魚介類の消費量は、約60kgと世界でもトップクラスです。しかし、日本の漁場は限られており、自給率は約4割にとどまり、その多くを輸入に頼っています。

2022年の日本の水産物輸入量は、約6,500万トンで、前年比で約10%増加しました。特に、サンマやマグロなどの大型回遊魚の輸入量は、前年比で大きく増加しています。

この高い輸入依存度は、国際市場での価格変動や為替レートの影響を受けやすく、円安の時には特に魚の価格が上昇する傾向にあります。

また、輸入魚介類の安全性や品質に対する懸念もあり、国内供給体制の見直しが求められています。


規制と持続可能性への取り組み

水産資源の持続可能性を確保するため、世界各国ではさまざまな規制が導入されています。

例えば、漁獲枠の設定は、特定の魚種が一定期間に捕獲できる量を制限するものです。これにより、魚の個体数が適切なレベルで保たれ、資源の枯渇を防ぐことができます。
また、漁業の季節制限によって、魚が産卵期間中には捕獲されないようにすることも重要です。これは、魚の個体数の回復を助けるための措置です。
さらに、絶滅の危機に瀕している特定魚種の捕獲を禁止することも、生態系を保護する上で重要な役割を果たします。

日本もまた、資源管理を強化し、持続可能な漁業を目指しています。
この取り組みの一環として、認証制度ラベル表示が推進されており、消費者は持続可能な方法で捕獲された魚介類を選択できるようになりました。

しかし、これらの規制や認証制度は、漁業者にとっては新たな負担になることもあります。
たとえば、漁獲枠の厳格化は、漁業者の収入減少につながる可能性があります。また、認証制度の取得には、コストや手間がかかることもあります。

そのため、持続可能性を追求しつつも、漁業者の経済的な負担を考慮したバランスの取れた政策が求められています。


食卓への影響と対策

大豆食品

代替食材を取り入れる

魚の価格が上昇する中、私たちの食卓には新たな変化が求められています。

魚介類の高価格に対応する一つの方法が、代替食材の活用です。
例えば、豆腐や納豆などの大豆製品は、優れた植物性タンパク質源です。これらの食材は、魚介類と同様にタンパク質が豊富でありながら、価格はより手頃です。
また、チキンやポークなどの他の動物性タンパク質を魚の代わりに利用することも有効です。これらの肉類は、魚介類と比較して安価であり、多様な料理法で楽しむことができます。

これらの代替食材は栄養面での利点も多く、きのこ類海藻類にはビタミンやミネラルが豊富です。大豆製品は特に、心臓病のリスクを減らすとされる不飽和脂肪酸を含んでいます。肉類では、鉄分やビタミンB群が豊富に含まれています。これらの栄養素は、健康的な体を維持するのに重要です。

代替食材の活用は、家計にやさしいだけでなく、バランスの良い栄養摂取にも寄与し、多様な食生活を実現する手助けとなります。


未利用魚の有効活用

魚の価格高騰に対するもう一つの解決策は、未利用魚の有効活用です。
未利用魚とは、食用に適しているにもかかわらず、漁獲された後に捨てられる魚のことです。日本では、年間約200万トンの未利用魚が発生していると推定されています。

未利用魚は、加工食品や飼料などに活用することができます。例えば、未利用魚を加工して、魚肉練り製品や缶詰などにすることができます。また、未利用魚を飼料にすることで、畜産物の生産量を増やし、食料の安定供給に貢献することができます。

さらに、通常市場に出回らない小型魚や一般にはあまり知られていない魚種を食材として活用することで、新たな食文化を創造し、水産資源の持続可能な利用を促進することができます。例えば、小型のイワシやサバ、カタクチイワシなどは、栄養価が高く、低価格で入手しやすいため、家庭料理においても重宝されます。

これらの未利用魚を活用することで、食卓を豊かにし、魚介類の需要と供給のバランスを改善する助けとなるでしょう。


政府の対策

魚の価格高騰問題に対して、政府もさまざまな対策を講じています。
〇水産物の輸入関税の引き下げ
〇水産業の持続可能性を高めるための支援
〇未利用魚の有効活用の促進

水産物の輸入関税の引き下げにより、輸入物の価格を抑制することができます。

また、水産業の持続可能性を高めるための支援策は重要です。例えば、持続可能な漁業の推進や漁業資源の管理強化、養殖業への技術支援などがあります。
また、消費者に対しては、国産魚介類の利用促進や、魚介類の正しい知識の普及に努めています。

これにより、国内の水産業を支えるとともに、消費者の食卓に安心できる魚介類を提供することが目指されています。政府のこれらの対策は、魚の価格安定と水産業の持続可能性の両方に寄与する重要な取り組みです。


水産資源をどう守るか

漁獲量の管理

漁獲量の管理

水産資源の保護と持続可能な漁業のためには、漁獲量の適切な管理が不可欠です。各国政府や国際機関は、魚種ごとに持続可能な漁獲量の上限を設定するTAC(Total Allowable Catch)を実施し、乱獲を防ぐための規制を強化しています。

例えば、日本では、漁業法に基づき、特定の魚種の漁獲量を年度ごとに制限することで、資源の過剰な利用を防いでいます。
TACは、毎年、漁業関係者や科学者などの意見を踏まえて、水産庁が設定しています。
また、漁期や漁法の制限も、水産資源の保護を目的として行われています。例えば、サンマの漁期は、毎年9月から12月までと定められ、この期間以外のサンマの漁獲は、禁止されています。

このような管理策は、長期的に見て魚種の存続を保障し、将来世代にも豊かな海の恵みを残すことを目指しています。しかし、国際的な協力や地域ごとの漁業者の理解と協力がなければ、効果的な管理は難しいため、広範な連携と啓発活動が重要です。
漁獲量の管理は、水産資源の枯渇を防ぐために有効な手段ですが、乱獲や密漁などにより、実際の漁獲量がTACを超えてしまうことも少なくありません。


資源回復のための取り組み

水産資源の持続的な利用と回復のためには、具体的な取り組みが求められます。

【人工ふ化や放流による資源回復】
特定の魚種を人工的にふ化させ、成長した後に自然環境に放流します。これにより、減少している魚種の個体数を増やし、水産資源の回復を図ります。 【特定魚種の保護期間の設定】 特定の魚種が産卵や成長する時期を保護するため、その期間中の漁獲を禁止します。これにより、魚種の個体数の回復と生態系の維持が図られます。

【漁具の改良による資源への負荷の軽減】
環境に優しい漁具の開発と使用は、海洋生物への影響を最小限に抑えます。これにより、非目的種の捕獲や海底の破壊を減らし、資源保護に貢献します。

【海洋保護区の設定】
海洋汚染の防止や生息地の保護など、海洋環境の健全さを維持する取り組みが重要です。健全な海洋環境は、魚種の多様性と豊かな水産資源を維持する基盤となります。 これらの取り組みによって、乱獲による水産資源の枯渇を防ぎ、持続可能な漁業への転換を図ることができます。

MSC認証:サステナブルな漁業への取り組み

サステナブルな漁業とは、資源を守りながら持続的に漁業を行うことです。

MSC認証(Marine Stewardship Council)は、持続可能な漁業と海洋環境の保護を目的とし、サステナブルな漁業で獲られた水産物に与えられる国際認証制度です。この認証を受けた漁業は、環境に配慮し、資源を守る方法で漁獲を行っていることが証明されます。

MSC認証を取得するためには、厳しい基準をクリアする必要があり、そのプロセスは透明かつ公正です。

〇資源量の適切な管理
〇持続可能な漁法を実施
〇海洋環境への配慮

この認証を受けた魚介類は、消費者に対して持続可能な選択肢を提供し、環境に配慮した消費を促進します。日本では、2023年7月現在、MSC認証を受けた水産物は、約1,000品目あります。

MSC認証は、世界中で認知されつつあり、持続可能な海の未来に向けた大きな一歩となっています


環境変動と海の未来

環境変動と海の未来

海洋環境の変化

地球温暖化の影響は、海洋環境にも顕著に現れています。

【海水温の上昇】
海水温の上昇は、魚の生息域や漁獲時期の変化、産卵や成長の遅れなどの影響を引き起こします。例えば、温帯地域に生息する魚種が、より冷たい水域へと移動しています。
これにより、特定地域の漁業に大きな影響が及び、漁獲可能な魚種の分布に変化が生じています。

【海面の上昇】
海面上昇により、干潟やサンゴ礁などの重要な魚類の産卵や育成地が水没し、これらの生息地が喪失します。これにより、特に幼魚の生存率が低下し、結果としてその地域の魚種の個体数が減少します。
また、海水の侵入により沿岸の塩分濃度が変化し、そこに住む植物や小動物が生き残りにくくなることも、食物連鎖の上位にある魚類に影響を及ぼします。

【海水の酸性化】
海水の酸性化が進むことで、サンゴ礁の減少や甲殻類の生存に悪影響を及ぼしています。
海水の酸性化がサンゴのカルシウムカーボネートの骨格形成に悪影響を及ぼすため、サンゴの成長が阻害されたり、死滅したりします。
一方、甲殻類(例えば、カニやエビなど)は、酸性化した海水によってその外骨格を形成する能力が低下する可能性があります。これは、カルシウムの形成が困難になるためで、甲殻類の生育や生存に必要な保護機能が損なわれることにつながります。

これらの変化は、海洋生態系全体に影響を与え、私たちの食卓にも間接的な影響をもたらしています。


水産資源への影響

気候変動は、水産資源にも深刻な影響を与えています。

海洋環境の変化により、魚種の分布や生態系のバランスが崩れ、漁獲量にも変動が生じています。特に、温暖化の影響を強く受ける魚種では、産卵期や成長周期に変化が生じ、漁獲量の減少につながっています。
例えば、サンマやマグロなどの大型回遊魚は、海水温の上昇により、北上する傾向にあります。また、カツオやイワシなどの小型回遊魚は、海面上昇により、沿岸域から遠ざかる傾向にあります。

海洋汚染やプラスチック廃棄物の増加は、水産資源に深刻な影響を与えています
海洋への化学物質やプラスチックの流出は、魚や海洋生物の生態系を直接的に損ないます。プラスチック片は、小さな海洋生物から大型魚類に至るまで、多くの海洋生物に誤飲され、内臓障害や栄養吸収の妨げにつながります。また、化学物質は魚類の生殖能力や成長に悪影響を及ぼし、水産資源の減少に繋がる可能性があります。

これらの問題は、私たちの食料供給に直接的な影響を与え、将来的な食料危機を引き起こす可能性があります。


持続可能な海づくり

持続可能な海の未来を守るためには、海洋生態系の保護と賢明な資源管理が不可欠です

海洋保護区の設定は、この取り組みの中心的な部分です。これらの保護区内では、商業的な漁獲が制限または禁止され、魚類や他の海洋生物が自然の状態で生息し、繁殖することができます。これにより、特に重要な産卵地や育成地を守り、魚種の個体数が自然に回復する環境が整います。

また、持続可能な漁法の採用は、海洋生態系への影響を減らし、無駄な副捕獲を防ぐためにも重要です。例えば、選択性の高い漁具を使用することで、狙った魚種だけを捕獲し、他の生物への影響を最小限に抑えることができます。

さらに、海洋汚染を防ぐための取り組みも重要です。これには、プラスチック廃棄物の削減や、化学物質の海への流出防止などが含まれます。これらの対策は、海洋生態系の健康を守り、結果として水産資源の豊かさを保つことに寄与します。

持続可能な海づくりは、地球全体の持続可能な未来に向けた重要なステップです。海洋生態系の保護は、私たちの食卓だけでなく、地球全体の生物多様性を守るためにも不可欠です。



魚の値段の上昇は、私たちの食卓に大きな課題をもたらしますが、その一方で、新たな可能性を秘めた問題でもあります。
私たち一人ひとりが、この問題を新たな視点から捉え、積極的に取り組んでいくことが重要です。

私たち一人ひとりの行動が、持続可能な食の未来を切り拓くことになるでしょう。






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この記事を書いた人

中川

環境開発学を専攻し、大学時代に交換留学で訪れた北欧でエコライフに目覚めました。帰国後、国内外のエコプロジェクトに参加し、サステナブルな食文化や食品ロス削減のヒントを発信しています。

監修者

文 美月

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は運動と長風呂。