実りの秋を迎え、今年も新米が店頭に並ぶ季節になりました。産地や銘柄の異なるお米がずらりと並ぶ売り場を見て、少しほっとした方もいるのではないでしょうか。
しかし、ほんの少し前までの状況を思い出してみてください。「お米が買えない」「スーパーの棚からお米が消えた」といったニュースが相次いでいました。価格の上昇も続き、毎日の食卓に欠かせない主食だからこそ、不安を感じた家庭も少なくありません。
それが新米の時期を迎えた途端、売り場の様子は大きく変わり、価格も落ち着いてきました。「あんなに足りなかったのに、今度はもう大丈夫なの?」と、急激な変化に戸惑いを感じるのも自然なことです。
かつては「あって当たり前」だったお米。
しかし、今回の米不足を経験した私たちは、ご飯一粒のありがたみや「無駄にできない」という思いを改めて実感しました。
短期間で大きく揺れ動いたお米をめぐる状況。今だからこそ、単なる価格や在庫の問題にとどまらず、作る人、売る人、食べる人、そして「食品ロス」という視点から、これからの私たちの「主食」について考えてみませんか。
あの米不足は何だった?

店頭からお米が消えた理由
2024年の夏、スーパーのお米売り場から商品が消え、購入できる数量が制限されるなど、全国各地で米不足が話題になりました。なぜ、私たちの主食であるお米が、突然手に入りにくくなったのでしょうか。
背景には、単一の理由ではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていました。
まず、2023年の記録的な猛暑です。夏季における深刻な猛暑と高温障害により、お米の粒が白く濁ったり割れたりする品質低下が発生し、流通に適したお米の供給量が減少しました。
さらに、社会情勢の変化も拍車をかけました。インバウンド(訪日外国人観光客)の急増による外食需要の拡大に加え、パンや麺類の値上がりに伴い、相対的に割安感のあったお米の消費が想定以上に伸びたことも影響しました。
そこへ追い打ちをかけたのが、2024年8月の南海トラフ地震臨時情報や相次ぐ台風です。自然災害への備えとしての買い込みや、メディア報道による不安感から「今のうちに買っておこう」という動きが広がり、流通のバランスが大きく崩れました。もともと在庫が少なくなる新米への切り替え時期と重なったことで、供給が追いつかなくなったのです。
農林水産省によると、スーパーでのお米の購買量は前年の約1.5倍に増加しました。
つまり、米不足は単なる不作や買い占めだけが原因ではありません。気候変動による生産への影響、需要予測の難しさ、災害への不安、そして流通の問題が複雑に絡み合って起きたものでした。
私たちの食卓に当たり前に届いていたお米が、実はさまざまな条件の上に成り立っていることを実感させる出来事だったのです。
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出典:農林水産省「令和7年度 食料・農業・農村白書 米の安定供給に向けた対応」
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価格も大きく変わった
「お米が買えない」という困惑と同時に、私たちの家計を直撃したのが価格の急上昇でした。これまで当たり前に買っていたお米の値段が跳ね上がり、買い物のたびにため息をついた方も多かったはずです。
農林水産省のデータによると、米不足前の2023年には5kg当たり2,000円程度だったお米の価格は、2025年には4,000円を超える水準まで上昇しました。わずか数年で、家計への負担が大きく増えたことになります。
ところが、2026年に入ると状況は一転。価格は徐々に下がり始め、9月28日~10月4日の平均販売価格は5kg当たり2,860円となりました。前年同期と比べても約32%の値下がりです。しかし生産コスト(肥料や燃料費)の上昇も重なり、以前のような水準に完全に戻ったわけではありません。
価格が落ち着くことは、消費者にとって歓迎したい変化です。一方で、お米の価格は「安ければ安いほどよい」とも言い切れません。
その理由については、後ほど「作り続けられる価格」という視点から考えてみましょう。
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出典: 農林水産省「米の価格を知りたい」(2026年10月9日公表データ)
参議院調査室「米不足・価格高騰問題 -米の安定供給に向けて- (PDF)」(2026年3月)
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食べる量はどう変わった?
「お米が足りない」と騒がれた一方で、長期的に見ると、日本人の「お米離れ」は進んでいます。
農林水産省によると、国民1人当たりの年間米消費量は、ピークだった1962年度の118.3kgから減少を続け、2022年度には50.7kgと半分以下になりました。背景には、パンや麺類など主食の選択肢が増えたことや、食生活の変化、人口減少などがあります。
それでは、長期的にお米を食べる量が減っているのに、なぜ米不足が起きたのでしょうか。
お米は需要が増えたからといって、すぐに生産量を増やせるものではありません。長期的な需要減少を前提に生産されてきた中で、短期間に需要と供給のバランスが崩れたことが、今回の米不足につながりました。
つまり「お米を食べる人が増え続けたから足りなくなった」のではありません。長期的には需要が減少していても、急激な変化によって不足が起こることがある。
今回の米不足は、お米の需要と生産をバランスよく保つ難しさを浮き彫りにしました。
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出典: 農林水産省「農林水産基本データ集」、農林水産省「食料・農業・農村白書」
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お米を作り続ける難しさ

今年のお米は足りている?
あれほど不足していたお米ですが、2026年の新米シーズンを迎え、供給状況は大きく変わっています。
農林水産省が2026年9月に公表した見通しでは、今年の主食用米の生産量は約735万~754万トン。年間需要量の見通しである約693万~711万トンを上回ると予測されています。
さらに、2026年8月末時点の民間在庫は150万トンと、前年同月より66万トン増加しました。米不足が深刻だった頃とは対照的に、お米の供給には余裕が生まれています。
こうした状況を受け、店頭価格にも下落傾向が見られるようになりました。
ただし、「お米が十分にあること」と「お米を安定して作り続けられること」は、必ずしも同じではありません。
消費者にとっては、ようやく安心してお米を購入できる環境が戻りつつあります。
しかし、「たくさんあるなら安心」とも言い切れません。需要を上回るお米が市場に出れば、今度は売れ残りや価格下落といった別の問題が生じる可能性があります。
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出典:農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」(PDF)(2026年9月)
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供給が戻った後の落とし穴
お米は不足すれば困りますが、供給が需要を大きく上回っても問題が生じます。それが、お米が売り切れずに余ってしまう問題です。
お米は適切な環境で長期間保存できますが、保管には設備や費用がかかり、時間の経過とともに風味や品質も変化します。また、新米が出回る秋になると消費者の関心が新米へ向かい、前年産(古米)などは一気に売れにくくなります。
実際、2026年の新米シーズンには、前年産米の在庫を抱える卸売業者や、新米の販売先の確保に苦慮する生産者の状況も報じられています。販売先が見つからないまま保管期間が長引けば、保管コストが増えるだけでなく、品質の低下によって販売や活用が難しくなる可能性もあります。
とはいえお米の生産は、工業製品のようにすぐ増減させることができません。余るからといって簡単に生産量を減らせるわけではありません。
お米は田植えから収穫まで数か月を要し、天候にも左右されます。また、一度田んぼを休ませると元の状態に戻すのが難しいため、余剰を恐れて安易に生産量を減らすこともできません。さらに生産を減らしすぎれば、需要の増加や不作によって再び不足する可能性もあります。
逆に作りすぎて価格が大幅に下落すれば、生産者の経営を圧迫します。
お米は「多すぎても少なすぎても困る」のです。だからこそ、必要な量を安定して作ることと、収穫されたお米を前年産も含めて無駄なく食べ切ること、その両方を考えていく必要があります。
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出典: 農林水産省「米の需給状況」
農林水産省「米の貯蔵中の変化、低温貯蔵効果」
参考資料:テレビ朝日「コメ余りの実情」(2026年9月3日)
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買いだめによる食品ロス
深刻な米不足を経験したことで、「また買えなくなるかもしれない」という不安から、念のために多めにお米を買い置きしたくなる心理は自然なものです。しかし、家庭での行き過ぎた買いだめは、食品ロスの観点から大きなリスクを抱えています。
お米は乾燥しているため腐りにくいと思われがちですが、精米した瞬間から酸化が始まり、徐々に風味や品質が低下していきます。特に高温多湿の環境では品質が低下しやすく、カビの発生やコクゾウムシなどの害虫が発生する原因になります。
農林水産省も、精米したお米は低温で直射日光を避けて保存し、精米後約1か月を目安に食べ切ることを勧めています。特に気温や湿度が高い時期は品質が低下しやすいため、購入量や保存場所に注意が必要です。
「安いうちに」「なくなると困るから」と必要以上に買っても、家庭で食べ切れなければ、せっかくのお米を無駄にしてしまうことにもなりかねません。家庭での食品ロスを防ぐためには、「常に無理なく食べ切れる量(約1ヶ月分程度)」を把握し、定期的に消費しながら買い足すスマートな購入スタイルが求められます。
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出典:農林水産省「お米の保存方法」
※「夏場2週間・冬場1か月」は農林水産省が示すおいしく食べるための目安で、賞味期限を意味するものではありません。
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外食・流通の現場
家庭だけでなく、外食や流通の現場でも、お米を無駄なく使い切ることは大きな課題です。
飲食店では、来店客数や注文数を予測して食材を準備します。しかし、天候や曜日、イベントなどによって客足は変わるため、需要を正確に読み切ることは簡単ではありません。ご飯を多めに炊いたものの注文が少なければ、余剰が発生することもあります。
さらに、収穫されたお米の中には、天候の影響などで粒が小さかったり(小粒)、割れていたり(割れ米)、着色があったりして、一般的な流通規格から外れてしまう「規格外米」が存在します。規格から外れたお米の中にも、食用として十分に活用できるものがあります。しかし、見た目や粒の大きさなどによって販売先が限られ、通常のお米よりも低い価格で取引されることがあります。
しかし、一粒のお米ができるまでには、田んぼを整え、苗を育て、水を管理し、収穫・乾燥・精米するまで、多くの時間やエネルギーが使われています。農林水産省によると、水田は日本の農地面積の半分以上を占める重要な生産基盤でもあります。
新米には新米ならではのおいしさがありますが、前年産のお米にも、それぞれの特徴や活用方法があります。見た目や収穫年だけで価値を判断するのではなく、一粒一粒のお米を最後まで大切に食べ切ること。それも、私たちにできる食品ロス削減の一つです。
家庭だけでなく、生産から流通、外食まで含めて「どうすれば最後まで食べ切れるか」を考えることが、お米を守ることにもつながります。
古くなったお米の保存や食べ方、処分については、ロスゼロの「古い米の賞味期限とその処分について」でも詳しく紹介しています。
- 古い米の賞味期限とその処分について
- 古い米、未開封でも賞味期限が過ぎてしまった米…皆さんはどう扱っていますか? 賞味期限はあくまで目安で、実際の品質は保管状態に大きく左右されます。また、米には適切な処分方法があります。このブログでは、古い米のロスゼロを目指す適切な扱い方と、その処分について詳しく解説します。
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出典:農林水産省「令和7年耕地面積(7月15日現在)
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お米のこれからを考える

「もったいない」を価値に変える工夫
粒が小さい、割れている、見た目がそろわない――。一般的な流通規格から外れたお米の中にも、食品として十分に活用できるものがあります。
例えば、割れ米などを粉砕して米粉に加工したり、お菓子や飲料などの原料として活用したりする方法があります。また、食用に適さないものについても、プラスチックの代替素材となるバイオマスプラスチックなど、食品以外の分野で活用する取り組みも進められています。
こうした工夫の魅力は、単に「捨てずに済む」ことだけではありません。
そのままでは販売先が限られていたお米も、加工や商品開発によって新たな価値が生まれれば、これまでとは異なる場所へ届けられる可能性があります。それが新たな需要となり、生産者を支えることにもつながります。
「規格に合わないから価値がない」のではなく、そのお米に合った活かし方を考える。
まだ活かせるものに新しい価値を見つけることは、食品ロスを減らすための大切な選択肢の一つです。
お米の食べ方をもっと広げる
お米を「粒のまま炊いて食べる」以外の選択肢を日常に取り入れることも、お米の需要を支え、食品ロスを防ぐ有効なアプローチです。
中でも注目されているのが「米粉」の活用です。グルテンフリーの健康志向の高まりとともに、米粉を使ったパンやパスタ、洋菓子などが身近になりました。輸入小麦を使っていた食品の一部を国産米粉に置き換えることは、日本の食料自給率の向上にもつながります。
農林水産省によると、米粉用米の需要量は2017年度の約2.5万トンから、2024年度には約5.6万トンへと2倍以上に増加しました。近年は製粉技術も進み、パンや洋菓子、麺など用途に応じた米粉が作られています。
米粉の利用が広がれば、消費者にとって食の選択肢が増えるだけでなく、国内で生産できるお米の新たな需要をつくることにもつながります。
さらに、利用する人や企業が増え、生産・加工・流通の規模が拡大すれば、米粉製品をより手に取りやすくするための環境づくりも進んでいく可能性があります。
「ご飯をもっと食べなければ」と考えるだけではなく、パンやお菓子、麺など、普段の食生活の中にもお米を取り入れていく。お米の食べ方や使い方を広げることも、日本のお米をこれからにつないでいく一つの方法です。
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出典:農林水産省「米粉をめぐる状況について」(PDF)(2025年)
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作り続けられる価格とは
お米の値段が下がれば、買う側にとってはうれしいものです。しかし、生産者が肥料や燃料、農業機械などの費用をまかない、翌年も米づくりを続けられなければ、将来の安定供給は難しくなります。
そこで重要になるのが、「作ってから売り先を探す」のではなく、あらかじめ需要を見込んで生産する仕組み「契約栽培」です。
主食用のブランド米だけでなく、米粉専用の品種(みずほちから等)や、外食・加工に使うお米をあらかじめ実需者(企業やメーカー)と数量・価格を定めて栽培する仕組みです。あらかじめ販売先や取引条件を決めておくことで、価格変動による影響を抑え、生産者が計画的に米づくりを続けやすくなります。
農林水産省も、需要に応じた米の生産・販売を推進しています。
私たち消費者にもできることがあります。特定の産地や生産者から直接・継続的に購入する「顔が見える関係」を意識することです。産地や生産者を知り、気に入ったお米を一度だけ「応援」のために買うのではなく、無理のない範囲で継続して選ぶことで、農家さんへの安定した需要を支えることにつながります。
高すぎれば日々の食卓から遠ざかり、安すぎれば作り続けることが難しくなる。食べる人にも作る人にも無理のない価格を考えることが、これからもお米を食べ続けられる未来につながります。
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出典:農林水産省「米をめぐる状況について」(PDF)
農研機構「米粉用水稲品種 ミズホチカラ」
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今回の米不足は、私たちが普段当たり前のように食べているお米のありがたさや、食を取り巻く環境の脆さを再認識するきっかけとなりました。
新米が出回り、一見すると平穏を取り戻したように見えますが、気候変動や人口減少、生産コストの上昇といった課題がなくなったわけではありません。
だからこそ、単に「手に入ったから安心」で終わらせるのではなく、家庭での適切な量を買い、使い切る工夫、アップサイクル商品への関心、そして生産者さんを支える視点を持つことが大切です。
「あって当たり前」ではないと知った今だからこそ、一粒のお米を大切にする。
毎日の何気ない選択の積み重ねが、お米を作る人と食べる人をつなぎ、これからの日本のお米を守ることにつながっていくのではないでしょうか。
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