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日本初のゼロ・ウェイスト宣言をしたのは徳島県の小さな町だった

公開日: 更新日:2023.06.30
日本初のゼロ・ウェイスト宣言をしたのは徳島県の小さな町だった

こんにちは、サステナブルライターの山下です。

徳島の小さな町が「ゼロ・ウェイスト・タウン」として世界に注目されていることをご存知ですか?

 

ゼロ・ウェイストとは、無駄・ごみ・浪費 をなくすという意味。

出てきた廃棄物をどう処理するかではなく、そもそもごみを生み出さないようにしようという考え方です。

(ゼロ・ウェイストアカデミーより引用)

 

2003年、徳島県上勝(かみかつ)町が、日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」をしました。

 

それから17年以上が過ぎた今でも、町民のみなさんひとりひとりがゴミの削減と分別に努め、リサイクル率は80%を越えています

 

全国平均のリサイクル率は平成29年度で20.3%(災害廃棄物を除く)

ですから、上勝町の数値がいかに高いかがわかります。

(出典:環境省『日本の廃棄物処理(平成29年度版)』)

 

今回は、人口1,500人あまりの上勝町がどのようにゴミと向き合い、日本最初の「ゼロ・ウェイスト宣言」するに至ったのかをお伝えしたいと思います。

 

クリップではさまれたリサイクルマーク

2003年、徳島県上勝町が日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」

宣言に至る道のりを振り返るため、まずは上勝町のゴミ処理の歴史を紐解いていきましょう。

 

戦前までは、ゴミといえば、生ごみや紙類、金属やガラスなどが主なものでした。

 

生ごみは肥料にして畑にまくほか、川に流して処理していました。

金属やガラスは買い取り回収があり、紙ごみは焦点が品物を包む包装紙として使ったり、家庭では台所やお風呂の焚き付けに利用したりしていたため、特別な処理が必要とされるゴミはほとんど発生していなかったそうです。

 

ゴミ処理の必要性が高まったのは、戦後にプラスチック製品などが急激に増えてからでした。

 

1975年ごろから家庭の庭先でゴミを燃やすようになり、大きなゴミの野焼きが始まりました。

 

今では考えにくいですが、冷蔵庫やタイヤ、布団やタンスなどを野焼き場と呼ばれる一角で燃やしていたのです。

そのため、常に煙や悪臭が漂い、火事も頻発していました。

 

ごみ焼却のドラム缶

たくさんの税金を使うことなく、ゴミ処理を行う

実は、この野焼きは1990年代まで続けられていました。

しかし、法律による規制や環境問題の悪化で野焼きを続けることが難しくなり、上勝町は大きな方針転換を行います。

 

多額の税金を使わなくても、きちんとゴミ処理ができるように「リサイクルタウン計画」を策定したのが1994年のことでした。

 

その後、野焼き場の近くに「日比ヶ谷ゴミステーション」を開設。

缶やビン、ペットボトルなど9種類のゴミの分別をスタートしました。

 

町民のみなさんが初めてのゴミの分別に戸惑わないよう、町役場の職員の方々が丁寧な説明でサポートを行いました。

 

このゴミの分別の種類は、その後さらに増えることになります。

1998年には分別の対象が25種類になり、燃やさなければならないゴミの量はさらに減りました。

 

有害物質のダイオキシンが社会問題となる中、町は導入した小型の焼却炉2基をわずか3年で撤去することを決断。

2001年4月からは35分別に増えることになったのです。

 

米科学者の勧めで「ゼロ・ウェイスト宣言」が誕生

上勝町の「ごみをできるだけ燃やさないように細かい分別をする」という方針を強くバックアップしたのは、アメリカの科学者でした。

 

アメリカでゼロ・ウェイストを提唱してきたポール・コネット博士が町で行った講演で、上勝町のみなさんは初めて「ゼロ・ウェイスト」という考え方を耳にします。

 

2003年、コネット博士の勧めで日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」が実現しました

 

その後2005年に、町が主導して設立したNPO法人ゼロ・ウェイスト・アカデミーが「日比ヶ谷ゴミステーション」の運営を行い、リサイクルだけでなくリユースにも力をいれています

 

ゼロ・ウェイスト・アカデミーは無料のリサイクルショップ「くるくるショップ」や、リメイクショップ「くるくる工房」をオープン。

今では町のみなさんの憩いの場としても活用されています。

 

リサイクルマークがついた入れ物

時代をリードする上勝町の今は?

上勝町の取組みの素晴らしいところは、役場・町民・事業所の協力の上に成り立っている点です。

 

読者のみなさんは、ご自宅でどれくらいのゴミの分別をされていますでしょうか?

 

35分別という細かい分別を続けておられる上勝町のみなさんには、本当に頭が下がりますね。

 

どうしても発生してしまう赤ちゃんの紙おむつなどに対しては、町役場が布おむつをプレゼントするという制度も実施しています。

布おむつのプレゼントだけでなく子育てのサポートも行い、町ぐるみで赤ちゃんの誕生を祝っています。

 

町内のカフェなどではゴミを出さない量り売りやレジ袋の削減にも早くから取り組んでいます。

町民だけでなく、カフェや商店などの事業所の協力があってこそ、高いリサイクル率が実現できていることがわかります。

 

(出典:ゼロ・ウェイストタウン上勝 | 上勝町ゼロ・ウェイストポータルサイト ZERO WASTE TOWN Kamikatsu | ZERO WASTE TOWN Kamikatsu

 

四つん這いになった赤ちゃん

2020年5月オープンの「HOTEL WHY」

上勝町のゼロ・ウェイストセンターは2020年5月、ユニークな宿泊施設「HOTEL WHY」をオープンしたことでも話題を呼びました。

 

「HOTEL WHY」とは『WHYという疑問符を持って生産者と消費者が日々のごみから学び合い、ごみのない社会を目指す』というゼロ・ウェイストセンターのポリシーを体現したホテル

建物そのものの形がクエスチョンマークになっているという遊び心も利いています。

 

宿泊中に出るごみを45種類に分別したり、ステイ中に使う石鹸の切り分けやコーヒーの量り売りなどを体験することができます。

上勝町の取組みを学ぶゼロ・ウェイスト・スタディツアーにも無料で参加できる特典もついています。

(出典:上勝町ゼロ・ウェイストセンター

 

こうした上勝町の取り組みは「ゼロ・ウェイスト・タウン」として世界からも注目を集めています

2020年3月には、イギリスの大手新聞ガーディアン誌にも掲載されました。

英語版のウィキペディアにも『Kamikatsu, Tokushima』として載っています。

こちらもぜひチェックしてみてくださいね。

 

(出典:ガーディアン『‘No-waste’ Japanese village is a peek into carbon-neutral future』、Wikipedia『Kamikatsu, Tokushima』)

 

手をつないている人

「ゼロ・ウェイスト宣言」した自治体は日本に5つ

世界では、1996年にオーストラリアの首都キャンべラが世界初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を発しました。

これをきっかけに、ヨーロッパや北米などにゼロ・ウェイストの輪が広がりを見せています。

 

日本では2021年1月現在、上勝町を含め5つの自治体が「ゼロ・ウェイスト宣言」を行っています。

福岡県大木町、みやま市、熊本県水俣市、奈良県斑鳩(いかるが)町です。

 

もちろん、各自治体が抱える課題や人口・産業構造はそれぞれ異なります。

目標年度や取組みの内容はさまざまですが、ゴミを減らしゼロ・ウェイストの輪を広げたいという思いは共通しています。

 

リンゴが入った袋を持っている

暮らしと向き合う「ゼロ・ウェイスト」という考え方

さて、ここで改めて「ゼロ・ウェイスト」の考え方を振り返ってみましょう。

そもそも「ゼロ・ウェイスト」という言葉には、ゴミをなくすだけでなく無駄や浪費をなくすという意味も含まれています

使い捨てではなく、ものを大切に長く使いなるべくゴミや無駄を出さないライフスタイルです。

 

ゴミ処理の方法は、大きく分けて「埋める・燃やす・リサイクル」の3種類があります。

 

それぞれの方法にはいくつもの課題があり、私たちはそれらに向き合っていかなくてはなりません。

 

ゴミを埋め立てる最終処分場の残余容量や立地の問題、ゴミを燃やすと多くのCO2も発生します。

リサイクルにかかる高いコストは、低いリサイクル率の原因のひとつでもあります。

 

上勝町が日本や世界から大きな注目を集めているのは、こうした問題にしっかりと向き合い、解決策の模索をずっと続けてきたからです。

 

私たちがこれからのライフスタイルを見直す上で、学ぶべきことがとても多いロールモデルだといえますね。

 

 

 

 

 

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この記事を書いた人

サステナブルライター 山下

電力会社やベンチャー企業でエネルギー関連のビジネスに従事したのち、2019年にサステナブルライターとして独立しました。「家庭の省エネエキスパート」資格を持ち、自治体において気候変動や地球温暖化に関するセミナーを実施した経験もあります。環境問題をもっともっと身近に感じてもらえるよう、わかりやすい記事を心がけています。

監修者

文 美月

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は運動と長風呂。