こんにちは!学生インターンの西村です。
畜産を知ろう!シリーズ、4回目の本記事では、家畜の病気や、関連する話題についてお話しします。
産業動物の疾病
家畜も人間と同じように病気になるんですよ。
家畜ごとになりやすい病気も異なります。
例えば、1年間に約8000kgも生乳を出す乳牛では、乳房炎はよく見られる病気の一つです。
肉牛は、栄養価の高い餌をたくさん食べるのですが、胃内にガスが大量にたまったり、うまく消化できなかったりなど、しばしば消化器の病気になります。
他にも蹄が炎症を起こしたり、下痢をしたり、胃の位置がおかしくなってしまったり、本当に様々な病気があります。
また、感染症には特に気をつけなくてはいけません。
集団で動物を飼育する畜産では、一度感染症が発生すると一気に広がり、畜産経営に大きな打撃を与えることがあるからです。
家畜のお医者さん
農家さんは毎日の見回りで元気がない動物を見つけたり、違和感を感じると、獣医さんを呼びます。
獣医さんと言っても街の動物病院の獣医さんではなく、牛や豚を専門とする獣医さんがいます。
産業動物の獣医さんは、担当地区ごとに農家を車で回って診察や治療を行います。
現地で作業ができるように、車にはたくさんの薬や注射器などの道具が載せられています。
到着すると、農家の方から話を聞き、注射をしたり手術をしたり、必要な処置をします。
産業動物の獣医さんは、病気を治す以外にも、予防のためにワクチンを打ったり、人工授精をしたりと、動物の健康に関わる色々な業務に携わっています。
(参考・写真)
One Health
動物の健康は、実は私たちの健康に大いに関係しています。
例えば、人に影響を及ぼす感染症の60%は
人にも動物にも感染する人獣共通感染症です。
高病原性鳥インフルエンザや、日本脳炎、新興感染症のエボラ出血熱などがそうです。
公害のように環境汚染を原因とする健康被害もありますし、地球温暖化によって感染症の分布域が変化して、今まで存在しなかった地域に新しい病気が発生することもあります。
他にも、環境の変化や病気が原因とする畜産物の生産量の減少は、食糧供給や栄養といった問題とも繋がっていきます。
このように人と動物と環境の健康はお互いに結びついていて、一体として対応されるべきという考え方をワンヘルス(One Health)と言います。
(参考)
薬剤耐性
One Healthの観点から、近年最も重要視されているテーマの一つが
薬剤耐性(antimicrobial resistance : AMR)です。
薬剤耐性とは、細菌、真菌、ウイルス、寄生虫などの病原微生物に対して
今まで効果のあった薬が効かなくなることで、特に薬剤耐性菌の増加が大きな問題になっています。
耐性菌を増加させる原因の一つが、細菌を殺したり増殖を抑えたりする抗菌薬の使用です。
細菌の中には、もともと抗菌薬に強い細菌が一定の割合で存在しています。
抗菌薬を使用することで、抗菌薬に強い細菌が生き残り、増殖します。
さらに困ったことに、抗菌薬に強い細菌はその特徴を普通の細菌にも伝え、普通の細菌も耐性を獲得してしまいます。
このようにして既存の薬に耐性を持った細菌がどんどん増えていきます。
(Impacts of Rising Antimicrobial Resistance|Lexa Gene)
これを防ぐためには、不必要な場面で抗菌薬を使わないこと、使う場合は中途半端に生き残る細菌がいないよう、効果のある濃度で適正な期間使用することが重要です。
病院で処方される抗生物質は抗菌薬に含まれます。
余った抗生物質を勝手に飲まないで、症状が治まっても決められた期間きちんと飲んで、と言われるのはこういった理由のためです。
抗菌薬は、畜産分野でも広く使用されています。
畜産では感染症の治療だけでなく、予防や成長促進を目的としても使用されています。
畜産分野で発生した耐性菌が環境中に出て、人間に感染することも十分に考えられます。
畜産で使用される抗菌薬の量はとても多く、これらを適正に慎重に使用していこうというのが世界的な課題となっています。
薬剤耐性は世界保健機関(WHO)も警鐘を鳴らす重大な問題です。
薬が効かないことで、感染症が治らず、悪化して亡くなる人がいるからです。
現在その数は全世界で70万人程度ですが、2050年には1000万人を超え、がんによる死者数を上回ると予想されています。
(薬剤耐性菌の新たな恐怖 クロストリジウム・ディフィシル|毎日新聞 医療プレミア)
実際にこの問題に関わってくるのは医師や獣医師、農家や行政であり、一般の方の生活には直接的な関わりはないかもしれませんが、こういった問題があるのだ、ということを知っておいて損はないと思います。
(参考)
薬剤耐性(AMR)とワンヘルス(One Health)|AMR臨床リファレンスセンター
今回で畜産を知ろう!4回シリーズはおしまいです。
私は、現在の様々な食材が簡単に手に入る便利な食生活の中で、食べ物がどこでどのように生産されて自分の元まで届けられるのかという、食の現実味が薄れてしまっていると感じていました。
特に、畜産ではその傾向が顕著ではないかとも思っていました。
畜産の世界について紹介した本シリーズを通して、ただの肉、牛乳、卵という認識から、もう一歩進んで、その背後の生産現場に少しでもリアリティを持っていただけたら嬉しく思います。
また、食料自給率やバイオマス、薬剤耐性など、畜産と環境問題両方に関わるテーマもご紹介しました。
畜産がいかに幅広い分野と繋がっているのか、その面白さも知っていただけたのではないかと思います。
農家さんや動物たちが私たちの食を日々支えているにもかかわらず、その存在や重要性が多くの人に認識されていない現状が、私は少し寂しいです。
食の背景を知ることで、食の現実味を持って毎日の食事を能動的に楽しむことができたら、それは素晴らしいことだと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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畜産を知ろう!③うんと大事なウンチの話。有機肥料やバイオガスとして再利用