こんにちは!
学生インターンの西村です。
前回は、家畜のえさについてお話ししました。
畜産を知ろう!シリーズ、第3回目の今回は、生物にとって食べることと同じくらい大事な排せつをテーマにお話しします。
家畜の排泄物について
牛や豚や鶏のうんちを見たことがありますか?
どんな形をしていて、1日にどれくらいの量があるのか想像がつくでしょうか?
これが牛のうんちです。
草の繊維が入ってボトボトッという感じで出てきます。
冬には湯気が上がります。
鶏は液体としての尿を出しません。
鶏ふんの白い部分が尿にあたります。
糞と尿を合わせた排泄量は、1日あたり搾乳牛で60kg、肉牛で25kg、豚で10kg、鶏で0.1kg程度です。
一軒の乳牛農家は平均で約94頭の牛を飼育しているそうなので、単純計算で94頭×60kg=5640kgになり、かなりの量になることがわかります。
畜舎の清掃
畜舎を清潔に保つために、毎日の清掃は欠かせません。
まず、畜舎を覗いてみましょう。
つなぎ牛舎であれば、牛の足の後ろのところにベルトコンベアーのついた溝があり、そこに敷料やふん尿を落として集められます。
牛房で飼育されている場合は、敷料を定期的に入れ替えて清潔に保っています。
堆肥化によるふん尿処理
ふんは、堆肥化という工程を経て処理されます。
堆肥化の過程で、微生物によって家畜のふんの中の有機物が分解・変化し、悪臭が抑えられ、取り扱いやすくなります。
また、発酵熱(なんと60度以上!)によって病原微生物や未消化の種子などが死滅し、肥料として使えるようになります。
畜産農家であれば大抵「堆肥舎」という設備が敷地内にあり、ここにふん尿を集めて堆肥にします。
定期的に攪拌することで、正常に発酵が進むよう促します。
方法にもよりますが、家畜ふんのみを堆肥化させる場合は2ヶ月程度で完了します。
ふん尿からできた堆肥は自家用の飼料用畑や、近隣の野菜農家で肥料として利用されます。
ホームセンターなどで一般向けにも販売されています。
作物を育てて、それを食べて排泄されたふん尿を肥料として再利用する、もしくは地域内で資源が循環する、というのは本来の物質の循環ですし、化学肥料の使用も減らすことができて環境にとってもよいと思います。
(参考・写真)
エネルギー源として再利用
「バイオマス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
バイオマスとは「生物」を意味する「bio」と「量」を意味する「mass」から作られた言葉です。
生物由来の有機資源で、化石燃料を除いたもののことを表します。
バイオマス燃料を燃やして発生する二酸化炭素は、そのバイオマス燃料の始まりである植物が成長途中で吸収した二酸化炭素です。
このことから、バイオマス燃料は大気中の二酸化炭素を増やさないため、再生可能エネルギーとして注目されています。
家畜排せつ物もバイオマス資源の一つです。
(De desecho a material preciado: el estiércol energético chileno)
日本における家畜排泄物量は一年間で約8000万トン。
これはなんといっぱいの東京ドーム75個分に相当します。
実は家畜排せつ物は、同じくバイオマス資源として注目されている食品廃棄物の2000万トンや間伐材など林地残材の400万トンを大きく上回り、バイオマス資源全体の1/4をしめる大きな資源なのです。
バイオマス資源としての家畜排せつ物のポテンシャルは、相当に大きいといえるでしょう。
利用方法の一つは、乾燥させたふん尿を燃料として直接燃やし、熱源として利用したり発電するなどがあります(バイオマス発電)。
もう一つは、ふん尿を直接燃やすのではなく、メタン細菌の作用により発酵させて(メタン発酵)メタンガスを産生し、燃焼させて利用する方法があります(バイオガス発電)。
(参照:畜産糞尿からの発電|バイオガス発電推進協議会)
バイオガスを作る際には、発生したメタンガスだけでなく、処理過程で発生した発酵残渣も液肥として利用することができます。
それぞれの農家が処理プラントを設置することで、その農家の新たな収入源とすることも可能でしょう。
課題が多く、日本ではまだまだ普及途上の技術ですが、副次的なメリットが多く生まれる可能性のある、面白い利用方法だと思います。
(参考)
今回は、家畜のふん尿をテーマとして、日々の作業としてのふん尿の処理からバイオガスまでについてお話ししました。
臭いものに蓋という感じで、まるで存在しないかのように無視されてしまいがちな排せつ物の話。
畜産農家に対して、汚い、臭いと言う苦情が寄せられることもしばしばあるそうです。
適切に飼育し、清潔を保つのはもちろん大前提です。
しかし、生物としてのキレイじゃない側面を当たり前のこととして受け止めることは大事なことだと、私は思います。
普段の生活で牛ふんの山を見ることもないとは思いますが、作物が育って、食べて、出して、すべてひっくるめて一体なのだなーという感覚を持てたなら、食や環境に対する視点もより広いものになると思います。
今回は、うんちを毛嫌いしないで、という気持ちでお話しさせていただいたところです。
次回は「動物と人と環境の健康は一つ!One Healthと薬剤耐性」についてお話しします!
過去の畜産を知ろう!シリーズも是非読んでみてください。
畜産を知ろう!②国産牛のエサはどこ産?食料自給率やフードウェイストとのつながり
畜産を知ろう!④動物と人と環境の健康は一つ!One Healthと薬剤耐性
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