私たちの暮らしと切っても切り離せないほど深い関わりをもつファッション。
しかし、ファッション業界からは多くの二酸化炭素(CO2)が排出され、地球温暖化の一因になっていると考えられています。
また、衣類を染めたり加工したりする過程では多くの水が使用されることもあり、水資源の有効活用もファッション業界における課題の一つです。
今回は、ファッション業界が環境にどのような影響を与えているのか、どのような対策が取られているのかについてご紹介したいと思います。
家庭で手放される衣類、大半が捨てられている
まず、日本では1年間にどれくらいの衣類が供給されているのでしょうか?
環境省が調査したところによると、2020年の衣類の国内新規供給量は合計81.9万トン。
このうち約9割の約75.1万トンが家庭で使用された後に手放され、そのほとんどが再利用されることなく廃棄されているというのです。
(2020年版 衣類のマテリアルフロー。出典:環境省『令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務』2020年3月 株式会社日本総合研究所)
この図が示す通り、家庭から廃棄される衣類の量は49.6万トン。
リユース(再利用)の15.0万トン、リサイクルの10.4万トンと比べても廃棄される量が圧倒的に多いことがわかります。
実際に、みなさんは着なくなってしまった衣類はどのようにしていますか?
家族や友人におさがりとして渡す、リサイクルショップやフリマプリなどに売る、中にはリメイクして再利用するという人もいるかもしれません。
しかし、手っ取り早く処分してしまうという人も多いのではないでしょうか。
もちろん、限られたおうちのスペースを有効に活用するためには処分することも大切でしょう。
また、手持ちの衣類が、必ずしもリサイクルショップやフリマアプリなどで売れるような代物ばかりだとは限りません。
ボロボロになるまで着古した衣類もたくさんあるでしょう。
そのため、衣類を捨てることそのものは仕方ないことだとは思います。
しかし、こうしたマテリアルフローのデータとして1年間に50万トン近くもの衣類が捨てられているという現状を目の当たりにすると「なんとかしなくては」と考えさせられてしまいますね。
ファッション産業からのCO2排出量は何%?
先ほどの環境省の調査を引用すると、国内のファッション産業から出るCO2排出量は約970万トンで、これは国内の排出量全体の0.8%に相当します。
0.8%と聞いて「あれ、意外に少ないのでは?」と感じた人もいることでしょう。
しかし、地球温暖化や気候変動の文脈ではマクロの視点をもつことが大切です。
そこで、衣類の原材料の調達から廃棄までのプロセス全体におけるCO2排出量を計算すると、約10倍の9,500万トンにまで膨らみます。
これは、世界の衣類によるCO2排出量21億600万トンの約4.5%です。
(国内に供給されている衣類のライフサイクルにわたるCO2排出量。出典:環境省『令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務』2020年3月 株式会社日本総合研究所)
ライフサイクルとは本来、生き物が誕生し、成長し、衰えて一生を終えるまでのサイクルのことを指します。
最近は、製品のCO2排出量を計算するときにも使われるようになり、原材料の調達から加工、流通などを経て利用され、廃棄されるまでのプロセスのことも「ライフサイクル」と呼ぶようになりました。
上図を見ると、衣類のライフサイクルのうち原材料調達や紡績、染色といったプロセスでのCO2排出量が多いことがわかります。
これらの上流のプロセスだけでCO2排出量全体の94.6%を占めるとされているのです。
また、衣服を1着作るのに排出されるCO2は約25.5キログラムと推計されています。
こうしたことを知ると、1着の衣類が私たちの手元に届くまでにどれほど長い旅をしてきたのか、それによって環境にどのような影響が及ぼされているのかをイメージしやすくなるのではないでしょうか。
服1着つくるのに必要な水は2,368リットル
一方で、衣服を作るのには大量の水を必要とします。
例えば、原材料である綿や麻、絹、ウールの生産にも水が必要です。
国内で消費される水の1割以上が衣類の生産に充てられているというデータもあります。
(ライフサイクル別国内に供給される衣類の水消費量。出典:環境省『令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務』2020年3月 株式会社日本総合研究所)
衣服を1着生産するのに必要な水の量は2,368リットル。
日本人が1日に使う水の量は平均で200〜300リットルだとされているため、実に7〜10日分に相当する量の水が1着の衣類の生産に使われていると考えられます。
私たちが身につける衣類が、これほど多くのCO2を排出し、水資源を使用しているということは少しショックでもあります。
こうしたことを考慮すると、1着の服を買うのもこれまでより慎重に判断したり、着なくなった衣類をどうにか工夫して再利用したりしなくては、と考えさせられますね。
これからのファッションを考える取り組み
こうした現状を受け、経済産業省は2022年3月、有識者による研究会がとりまとめた
「ファッションの未来に関する報告書」を発表しました。
この報告書では、ファッションの今後の道筋を考えるにあたって重要な10のキーワードが挙げられています。
(出典:経済産業省『ファッションの未来に関する報告書』2022年3月)
10のキーワードの最初に掲げられたのは「需給ギャップを縮小させるビジネスモデル」。
つまり、まだ着ることができるのに捨てられてしまう「ファッションロス」を削減する取り組みです。
これまで行われてきた衣類の過剰生産によって、多くの衣類が売れ残り、残念ながら廃棄されることでさまざまな悪影響を生み出していると指摘されています。
そこで、今後は、AIなどを活用して必要な衣類の量を算出し、できるだけ廃棄を生まないような生産計画にシフトしていくなどの取り組みが検討されています。
インターネットなどによる通信販売における先行予約などもこうした取り組みの一つです。
また、どうしても在庫してしまった衣類をレンタルサービスに回したり、アップサイクルして別の製品に生まれ変わらせたりする取り組みを始めている企業もあるとのことです。
昨今、必要なときにだけ衣類をレンタルするなどのサブスクリプションサービスが登場しているのも、こうした背景によるものでしょう。
良質なファッションを長く楽しむ時代に
食品と同じく、ファッションロスの削減が迫られる今。
私たち消費者も、長く着ることができる衣類を選び抜き、大切に使い続けることが求められています。
自分にとって本当に心地よくいられる衣服と出会い、お手入れをしながら長く着続けるということこそがラグジュアリーだとする文化にシフトしつつあります。
それは、自分自身のありたい姿に近づき、人と比べることなく自分なりの豊かさを楽しむうえでも大事なことなのかもしれません。
(参考:環境省『令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務』2020年3月 株式会社日本総合研究所、経済産業省『ファッションの未来に関する報告書』2022年3月)
合わせて読みたい
- ファッションロスをなくそう! アパレル企業の取り組みも紹介
- まだ着ることができるのに捨てられてしまう「ファッションロス」をなくすための取り組みについてご紹介します。
ロスゼロとは?
- フードロス削減、楽しい挑戦にしよう!
- 通販サイト「ロスゼロ」では、様々な理由で行先を失くした「フードロス予備軍」を、その背景やつくり手の想いと共に、たのしく届けています。