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Bean to Barって何?カカオ農家を救う、サステナブルなチョコレート製造

公開日: 更新日:2024.01.09
Bean to Barって何?カカオ農家を救う、サステナブルなチョコレート製造


チョコレートは多くの人にとってお馴染みのお菓子ですが、その裏側には見えない多くの課題があります。特に、カカオ農家の厳しい労働環境や児童労働、そして環境への影響などが問題とされています。

そんな中、"Bean to Bar"と呼ばれる新しいチョコレート製造の動きが注目されています。このアプローチは、カカオ農家から最終的なチョコレート製品までの全過程に目を向け、よりエシカルでサステナブルな方法を求めるものです。

Bean to Barが何であるのか、どのように社会や環境、そして私たちの選択に影響を与えるのかを探りましょう。

Bean to Barとは何か

チョコレートの原料

Bean to Barとは

Bean to Barとは、カカオ豆の収穫からチョコレートの完成まで、すべての工程を一貫して行うチョコレートの製造方法です
Bean to Barのチョコレートは、一般的にカカオ農家から直接カカオ豆を仕入れて、焙煎、粉砕、テンパリング、成形、包装までを自社工場で行います。そのため、カカオ豆の個性を活かした味わいや、サステナブルな生産にこだわった製造過程が特徴です。
Bean to Barのチョコレートは、2000年代初頭にアメリカで始まり、近年では日本でも注目を集めています。その背景には、以下の2つの理由が挙げられます。
チョコレートの味わいに対する関心の高まり
サステナビリティへの意識の高まり
Bean to Barのチョコレートは、シングルオリジンと呼ばれる、特定の産地のカカオ豆を使用したものが多いです。シングルオリジンのチョコレートは、産地によって異なるカカオ豆の個性をダイレクトに味わうことができます。
また、Bean to Barのチョコレートは、カカオ豆の産地や品種、焙煎度合いなどを、製造者が細かく調整して作られます。そのため、Bean to Barのチョコレートは、他のチョコレートとは一味違う、深みのある味わいを楽しむことができます。

チョコレートができるまで

カカオ豆の選定: まず、品質の高いカカオ豆を選定します。これによって、最終的なフレーバーと品質が大きく影響を受けます。
焙煎(ロースティング): 選定された豆は焙煎されます。この工程で、カカオ豆の風味が引き出され、水分が除去されます。焙煎の時間や温度は、最終的なフレーバーに影響を与えます。
粉砕: 焙煎された豆は粉砕され、カカオリカー(液状のカカオ)となります。この液はその後、カカオバターとカカオパウダーに分離される場合もあります。
混合: カカオリカーは砂糖、ミルクなどと混合されます。この工程で、チョコレートの甘さや質感が決まります。
研磨: 混合物はさらに研磨され、滑らかな質感となります。この工程は、高品質なチョコレートには特に重要です。
テンパリング: ここでテンパリングが行われます。熱処理によってカカオバターの結晶構造が均一化され、製品の品質が向上します。艶が出て、口どけが良くなります。
成形と冷却: テンパリングされたチョコレートは、最終的な形に成形され、冷却されます。これによって製品は固まり、消費者に届けられる状態となります。
パッケージング: 最後に、製品はパッケージングされ、販売の準備が整います。

以上が一般的なBean to Barのチョコレート製造プロセスです。各工程での品質管理が非常に重要であり、特に焙煎とテンパリングは製品のフレーバーと質感に大きく影響を与えます。

このように、Bean to Barはただの製造方法ではなく、品質、倫理性、環境への配慮が一体となった持続可能な製造方法として理解するべきでしょう。

カカオ農家の現状と課題

カカオ栽培

カカオ農家と児童労働

おいしいチョコレートに込められた裏の現実として、カカオ農家における児童労働があります。特に西アフリカ地域のカカオ農家で顕著な問題とされています。
国際労働機関(ILO)の報告によると、数十万人以上の子どもが危険で過酷な労働を強いられていると言われています。これは労働に従事する子どもたちが学校に通う時間が削られ、教育機会が失われるだけでなく、物理的・精神的健康にも悪影響を与えています。子どもたちは重いカカオの実を運ぶ、農薬を扱う、長時間労働するといった状況にさらされています。
児童労働の根底には、農家の収入が極端に低いという問題があります。これが改善されない限り、家族は生計を立てるために子どもたちを労働に駆り立てざるを得ないのです。この悪循環を断ち切るためにも、消費者がフェアトレードやエシカルなチョコレートを選ぶことは非常に重要です。

収入と生活向上の課題

世界銀行の報告によると、多くのカカオ農家の年収は1人当たり$1日以下と報告されています。これは極端な貧困線を下回る額であり、基本的な生活条件すらままならない状況です。適正な収入が得られないことにより、医療、教育、住居、食料といった基本的な人権が脅かされているのです。
農家が適正な収入を得られない背景には、多くの要因が絡み合っています。例えば、カカオ価格の不安定性、中間業者による価格操作、貧困による教育の欠如などがあります。これらの問題を解決するには、供給チェーン全体での透明性の確保や、政府、NGO、企業が連携して持続可能な取り組みを行う必要があります。

サステナブルなカカオ製造は、環境だけでなく、これら農家の人々の生活向上にも貢献するものでなければなりません。そのためにも、消費者がより倫理的な選択をすることが求められます。

持続可能なチョコレート製造とその社会・環境へのインパクト

大量のカカオ

持続可能なカカオ調達と地域社会への影響

カカオ農家に公正な収入を確保することは、サステナビリティの核心です
現状、約500万人以上のカカオ農家が存在するものの、多くが貧困状態にあります。持続可能な調達メカニズム、例えばフェアトレードやレインフォレストアライアンス認証、を採用することで、農家の生計が向上し、教育や医療へのアクセスも改善されます。
また、地域社会への投資、例えば教育プログラムの提供やインフラの整備、が進むことで、持続可能な地域社会が形成される可能性が高まります。このような取り組みはSDGs12(持続可能な消費と生産)の達成にも寄与します。

環境保全と持続可能な製造プロセス

森林破壊と生物多様性の喪失は、特にチョコレート産業が直面する環境問題です。
持続可能なチョコレート製造では、森林認証を受けた農地でのカカオ栽培や、有機・無農薬の栽培方法が採られます。さらに、製造過程でも再生可能エネルギーの使用、水のリサイクル、廃棄物の削減等が行われます。これにより、CO2排出量が平均で30%削減できるとされています。これはSDGs15(陸上生態系の保護)の目標に直結し、不適切な農地利用による森林減少と生物多様性の喪失を防ぐ役割を果たします。

消費者参加と透明性の確保

持続可能な製造だけでなく、その製品が消費者に選ばれることが重要です。多くのブランドは透明性を高め、自らの取り組みを公表しています。
一部のBean to Barブランドは、独自の持続可能性指標を設定し、その進捗を定期的に公表しています。消費者はこれらの情報を基に、持続可能な製品を選ぶことができます。
また、消費者が持続可能な製品を選ぶこと自体が、SDG12の目標達成に繋がります。持続可能なチョコレートが主流になることで、その価値観が普及し、さらなる持続可能な製造と消費が促進されるでしょう。

エシカルで品質の高いチョコレートの選び方とその影響

チョコレート

フェアトレードとエシカルな消費

フェアトレードチョコレートは、カカオ農家に公正な報酬を確保するとともに、環境や社会への負荷を最小限に抑える取り組みを行っています
フェアトレードマークが付いたチョコレートは、児童労働の禁止や農家の適正な報酬、環境負荷の削減など、厳格な基準に基づいて認証されています。エシカルな消費によって、消費者はSDGs(持続可能な開発目標)にも貢献できます。特にSDGs12(持続可能な消費と生産)と密接に関連し、その他の目標にも寄与します。
フェアトレード制度を通じて農家が得る収入は、平均で20〜30%程度向上し、その結果、カカオ豆の品質も向上する傾向にあります。このような収益向上は、農家が新しい農具を購入したり、土地を改良したりするための余裕を生む可能性があります。

カカオの品質とフェアトレードの関係

フェアトレードは、農家が適切な報酬を得ることで、カカオ豆の品質が向上する可能性があります。適切な報酬が保証された結果、農家は新しい農具の購入や土地の改良に余裕をもてるようになります。
「Bean to Bar」ブランドなどは、品質向上に特に力を入れています。品種改良、適切な肥料の使用、病気や害虫の管理など、農法の多角的な改善が行われています。一部のブランドは、農家との直接パートナーシップを築き、共同で研究や実験を行っています。これにより、一粒一粒のカカオ豆の品質が確保されるようになっています。

エシカルな選択と持続可能な未来

エシカルなチョコレートの選択は、持続可能な未来に対しての重要な一歩です。公正な取引が行われ、農家が適正な収益を上げることで、農業継承の意欲も高まり、地域社会全体が持続可能な方向へと進む可能性があります。
また、エシカルな選択を行う消費者が増えれば増えるほど、企業も持続可能で公正なビジネスモデルにシフトする傾向があります。これはSDGsの達成を加速するだけでなく、資源の効率的な利用や環境保護、社会的公正にも貢献します。このようなエシカルな選択は、消費者一人一人の力で、社会全体や地球環境に対してポジティブな影響を与えうるのです。

Bean to Barの未来展望

溶けたチョコレート

SDGs16と社会的責任

Bean to Barのチョコレート製造は、SDGs16(平和と公正な社会の実現)にも寄与する可能性があります。特に、紛争地域での生産が安全かつ公正に行われるようにすることが一つの方法となりえます。
企業が全供給チェーンにわたる透明性を確保し、農家や労働者の人権を尊重することで、社会全体が持続可能な発展を遂げる機会を手にする可能性が高まります。国際労働機関(ILO)によれば、公正な労働環境を提供すると生産性が最大12%向上するというデータもあり、これはBean to Barブランドにとっても重要な指標と言えるでしょう。

未来への課題と解決策

Bean to Barのモデルは多くの面で新しい可能性を秘めていますが、その実現にはいくつかの課題が存在します。
環境に与える影響を最小限にする必要があり、これには農薬や化学肥料の使用量を減らす技術革新が必要です。また、気候変動によるカカオの収穫量減少は避けられない課題となっています。国際カカオ機構(ICCO)は、2050年までにカカオの需要が供給を上回ると警告しています。その解決には、より効率的な栽培方法の導入や新しい品種の開発が必要とされています。

協力と教育の重要性

持続可能な未来を実現するには、多角的な協力と教育が不可欠です。Bean to Barの製造者がNGO、地元のコミュニティ、研究機関と連携することで、持続可能なサプライチェーンと生態系の保全が可能となります。
たとえば、ETHチューリッヒによる「カカオ生態系マネジメント」プログラムは、農家に環境に優しい栽培方法を教え、持続可能な生産を促しています。このような教育プログラムと情報共有が、Bean to Barブランドが未来に向けて続けていくべき方向性を明確にし、持続可能なチョコレート製造の新たなスタンダードを作る可能性があります。

以上のように、Bean to Barの未来展望には多くの可能性がありますが、それには解決すべき課題も多いです。社会的責任、環境課題、そして教育と協力によってこれらの課題に取り組むことが重要です。


Bean to Barが単なる流行やブランド戦略ではなく、カカオ農家の生計向上や環境保全に真剣に取り組む価値ある動きであることを理解していただけたでしょうか。

この手法は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも直接的・間接的に寄与するものです。特に、労働環境の改善や環境負荷の軽減、社会的な公正など、多くの目標に資する可能性があります。未来に向けて、一人一人のエシカルな選択が集まることで、持続可能なカカオ産業、そして持続可能な世界へと一歩ずつ進めることができるのです。

次にチョコレートを手にする際は、その背後にある物語と責任を思い出してみてくださいね。


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この記事を書いた人

中山

地球を愛する料理研究家であり、SDGsと食品ロスに情熱を傾けるライターです。食品ロス削減を通じて、環境保護と健康的な食生活の両立を促進し、持続可能な社会の実現を目指しています。趣味は家庭菜園。

監修者

文 美月

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は運動と長風呂。