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【日本のインフラの歴史】ガスを使えるようになったのはいつから?

公開日: 更新日:2024.01.16
【日本のインフラの歴史】ガスを使えるようになったのはいつから?


ガスがいつから日本で使われるようになったかご存知ですか?

日本のインフラがガスと共にどのように進化し、私たちの生活を豊かにしてきたのか。
ガスの役割とその歴史的変遷に光を当て、その知られざる物語を紐解きます。


ガスの基礎知識と日本のガス事情

ガス

ガスの種類と特徴

ガスとは、気体状の燃料のことです。液体や固体と異なり、形や体積を持たない物質です。

ガスは、主に天然ガス、石油ガス、LPGの3種類に分けられます。
天然ガスは、地中から採掘される天然資源です。主な成分はメタンで、発熱量が高く、クリーンなエネルギーとして注目されています。
石油ガスは、石油の精製過程で副産物として得られるガスです。主な成分はプロパンとブタンで、発熱量が高く、家庭や産業で幅広く利用されています。
LPGは、プロパンとブタンを主成分とするガスです。液化させて輸送や貯蔵が容易で、家庭や小規模店舗などで利用されています。

ガスは、石油や石炭に比べて、二酸化炭素排出量が少ないため、環境負荷が小さいエネルギー源として注目されています。また、貯蔵や輸送が容易で、安定的に供給できるという利点もあります。

ただし、ガスは便利で効率的なエネルギー源ですが、可燃性であるため、取り扱いには注意が必要です。また、ガスの種類によって特性や用途が異なるため、適切な利用が求められます。


日本のガス事情

日本では、天然ガスが主流です。2022年の日本におけるガス消費量のうち、天然ガスは約80%を占めています。

天然ガスは、主にカタール、ロシア、オーストラリアなどから、LNG(液化天然ガス)として輸入されています。LNGは、天然ガスをマイナス162℃まで冷却して液化したもので、液体化することで、体積を600分の1にまで小さくすることができます。そのため、大量の天然ガスを効率的に輸送することができます。

LNGは、タンカーで日本に輸入されます。タンカーは、LNGをマイナス162℃で保持するための保冷装置を備えています。日本に到着したLNGは、陸上LNG基地で再気化され、ガス管を通じて各地に送られます。

日本では、天然ガスのほかに、石油ガスやLPGも利用されています。石油ガスは、石油の精製過程で副産物として得られるガスです。LPGは、プロパンとブタンを主成分とするガスです。
石油ガスは、主に工場や発電所などで利用されています。LPGは、家庭や小規模店舗などで利用されています。
石油ガスやLPGは、タンクローリーやパイプラインで輸送されます。


明治時代から始まったガス事業

ガス灯

ガス事業の黎明期

日本でのガス利用は、1872年(明治5年)横浜の馬車道でガス灯が点灯されたことから始まりました。
当時の日本は、西洋の技術を積極的に取り入れ、新しい文化を築き上げていた時期です。横浜は開港以来、急速な都市化が進んでおり、夜間の街灯としてガス灯が採用されました。

ガス灯の製造には、コークスを燃焼させて発生するガス(コークスガス)が使われました。コークスガスは、燃焼時に煤(すす)が出にくく、明るさも安定していたため、夜間の街灯として適していました。

このガス灯の点灯は、日本における近代化の象徴的な出来事とされています。ガス灯の導入は、街の夜間照明を一新し、夜間営業の拡大や治安の向上を図り、安全で快適な生活環境を提供する一歩となりました。
このように、ガス事業の開始は、日本のインフラと社会に新たな変化をもたらしたのです。


ガス灯の普及と文明開化

横浜に続き、1874年(明治7年)には東京の銀座にもガス灯が灯されました

そして日本の「文明開化」の中心地であった東京で、高島嘉右衛門が設立した東京瓦斯が、ガス事業を開始しました。
東京瓦斯は、ガス灯の普及だけでなく、ガスボンベの製造や、ガス器具の販売などにも力を入れました。

これらの取り組みにより、東京のガス灯の普及は急速に進み、1900年(明治33年)には、東京の街灯の約9割がガス灯になりました。

ガス灯の光は、夜の街を明るく照らし、安全性と都市の美観を向上させました。
この時期のガス灯の普及は、文明開化の象徴として、西洋文化の流入を促進する役割を果たし、日本の近代化への道を加速させ、文化的、経済的発展に大きく寄与したのです。


明治の技術進化

明治時代の日本は、西洋からの技術導入に積極的で、ガス事業もその一環として発展しました。

ガス灯の普及に伴い、ガス製造やガス配管の技術も進歩しました。
1880年(明治13年)、東京瓦斯は、日本で初めての合成ガス製造工場を建設しました。合成ガスは、石炭を蒸し上げて製造するガスであり、コークスガスよりも燃焼効率が高く、価格も安価でした。

また、ガス配管の技術も進歩し、ガス管の敷設が容易になりました。これにより、ガス灯の普及エリアが拡大し、ガスの利用用途も広がりました

当時、ガスは主に照明用として使用されていましたが、技術の進化に伴い、暖房や調理にも使用されるようになりました。この技術進化は、家庭内での生活の質を高めるとともに、産業界においても重要な役割を果たしました。

1890年(明治23年)には、東京瓦斯が、日本で初めてのガス事業法に基づくガス供給事業者に指定されました。これにより、ガス事業は、安全かつ安定的に運営されるようになりました。

こうして、ガスは日本の近代化と共に成長し、現代の生活インフラの一角を担うまでになったのです。


ガスは照明から熱利用へ

ガスコンロ

ガスの利用用途の拡大

当初、日本でのガス利用は主に照明のためでしたが、やがてその用途は大きく広がりました。

明治時代後半には、家庭では、ガスコンロやガスストーブが普及し、調理や暖房に使われるようになりました。これにより、日常生活におけるガスの役割は大きく変化しました。

また、ガスの便利さと効率の良さが認識されるにつれ、家庭だけでなく商業施設や工場でもガスボイラーやガスバーナーが使われるようになり、熱源として欠かせないものとなりました。


ガスの熱利用の進展

ガスの熱利用は、日本の産業と家庭生活に大きな変化をもたらしました。

ガスの熱利用が進展した理由は、いくつかあります。
まず、ガス製造技術の進歩により、ガスの価格が安価になりました。また、ガス配管の技術も進歩し、ガスの供給が安定的になりました。さらに、ガス器具の性能も向上し、安全に利用できるようになりました。

特に、ボイラーや工業用バーナーなど、ガスを活用した産業用機器の発展が顕著です。これらの機器は、熱効率が高く、環境への影響も少ないため、多くの産業で重宝されました。
また、家庭用のガス暖房やコンロも普及し、人々の生活をより快適にしました。

ガスの熱利用技術の発展は、エネルギーの効率的な使用と、快適な生活環境の提供に寄与しているのです。


ガスによる産業発展

ガスは日本の産業発展にも大きく貢献しました。特に、重工業や化学工業におけるガスの利用は、高効率で環境に優しい生産を可能にしました

ガスボイラーは、蒸気機関や動力機械の熱源として使われ、鉄鋼や化学など、さまざまな産業の機械化を促進しました。また、ガスバーナーは、食品加工や製紙など、さまざまな産業の工程で使われ、生産効率の向上に貢献しました。
さらに高温を必要とする製鉄や化学反応のプロセスにおいて、ガスは重要な熱源として利用されています。また、ガスを利用することで、エネルギーコストの削減や排出ガスの低減が実現しました。

1930年(昭和5年)には、ガス産業は、日本の製造業の約10%を占める規模になりました。
ガスの進化は、日本の産業構造を支え、経済の発展に大きく寄与したのです。


ガス事業の競争と統合

ガス事業

ガス業界の変遷

明治時代から昭和初期にかけて、ガス業界は、競争と統合を繰り返してきました。

ガス事業の始まりからしばらくの間、日本のガス業界は多くの小規模事業者によって形成されていました。
明治時代初期には、ガス事業は、地方自治体や民間企業によって、数多く設立されました。しかし、ガス事業は、初期投資が大きく、経営が不安定な事業でした。そのため、多くのガス会社が倒産したり、合併したりしました。

1930年代になると、ガス業界は大手ガス会社による寡占化が進み、全国のガス事業者の約9割が、大手5社に集約されました。これは、戦時体制の下、政府がガス事業の統合を推進したことが主な理由です。

戦後、ガス業界は再び競争の時代を迎えました。このことはまた、地域ごとに異なるサービスや価格設定を生む原因ともなり、消費者にとっては選択の幅が広がる一方で、混乱を招くこともありました。
この時期のガス業界は、活発な競争と市場の成長が特徴的でした。


競争から統合へ

20世紀に入ると、日本のガス業界は大きな転換期を迎えます。

多くのガス事業者が存在する中で、1990年代以降、ガス会社は、合併や共同事業などを通じて、事業規模の拡大や、効率化を図りました。
現在では、大手ガス会社が全国のガス供給の約8割を担っています。これにより、より大規模で安定したガス供給体制が構築されることになります。

また、統合によって事業者間の競争は減少し、サービスの標準化や安全性の向上に努めることが可能になりました。統合は、ガス業界にとって新たな発展のステージを意味していました。

2023年現在、ガス会社は、エネルギーの多様化や、脱炭素社会の実現など、新たな課題にも取り組んでいます。


ガス事業の効率化

ガス事業の統合に伴い、効率化の波がガス業界全体を包み込みます。

ガス会社は、統合により、ガス製造やガス配管などの設備を共有することで、コストを削減できました。また、統合によりガス事業のノウハウを共有することで、サービスの質を向上させることができました。

そして技術革新により、ガスの生産、供給から顧客サービスに至るまでのプロセスが効率的になりました。
例えば、リモートでのガスメーターの監視や自動化された配管ネットワークの管理など、新しい技術の導入により、コスト削減やサービスの向上が実現しました。

また、安全性の確保という点でも、より厳格な基準が設けられ、事故のリスクを低減する努力がなされました。

これらの効率化は、ガス事業をより持続可能なものにし、顧客にも恩恵をもたらしたのです。


ガス業界の成長

給湯器

ガスの需要拡大

20世紀初頭、日本では人口の増加と都市化の進展に伴い、ガスの需要が飛躍的に拡大しました。
特に都市部では、ガスを利用した暖房や調理、さらには産業用途への需要が高まっていきました。また、経済の成長と共に、商業施設や工場でのガス利用も増加しました。

1920年(大正9年)のガス消費量は、約100万トンでしたが、1960年(昭和35年)には、約4000万トンに達しました。2023年現在では、ガス消費量は約9000万トンに達し、日本のエネルギー消費量の約10%を占めるまでに成長しています。

ガス業界は急速な発展を遂げ、日本のエネルギー市場における重要な位置を確立しました。

戦後、経済成長に伴う国民の生活水準の向上により、ガス器具の需要はますます高まりました。また、エネルギー価格の低下により、ガス利用がより経済的になりました。
現在、環境問題への関心の高まりにより、ガスのようなクリーンエネルギーへの需要が高まっています


ガス設備の普及

ガスの需要拡大に伴い、日本各地でガス設備の普及が進みました。

家庭用のガスコンロや暖房器具は、従来の石炭や木材を使う設備に比べ、使用が簡単で清潔、かつ効率的であることから、多くの家庭に受け入れられました。また、ガス給湯器などの普及も進みました。
さらに、商業施設や工場では、ガスボイラーやガスバーナーなどの普及が進みました。

2023年現在では、日本の家庭の約9割が、ガスコンロやガスストーブを利用しています。また、商業施設や工場の約7割が、ガスボイラーやガスバーナーを利用しています。

そしてガス管の整備が進んだことで、都市部だけでなく、地方都市や郊外においてもガスの供給が可能になり、生活の質の向上に寄与しました。

このように、ガス設備の普及は、ガスの利用をより身近なものとし、日本の家庭生活や社会に大きな変革をもたらしたのです。

安全技術の進化

ガスは、可燃性ガスであるため、安全性が重要な課題でした。ガス業界の成長とともに、ガスの安全性への関心も高まりました。

これに応える形で、ガス設備の安全基準は厳格化され、安全技術が進化しました。
例えば、ガス漏れを早期に検知するセンサーや、自動的にガス供給を遮断する安全装置などが開発され、家庭や工場での事故リスクが軽減されました。

また、ガス業界自体もガス事故の防止を目的とした啓発活動や定期的な設備点検を強化し、安全意識の向上に努めています。これらの努力は、ガス利用の安全性を高め、消費者の信頼を得ることに大いに貢献しています。

消費者も、ガスの利用に際しては、「ガス栓は使用しないときは閉める」「ガス器具を長時間使用しないときは、ガス栓を閉める」「ガス漏れを発見したら、直ちにガス栓を閉め、換気をする」といった安全対策を心がけることが大切です。


近代エネルギーとガス

ガス工場

ガスのエネルギーとしての地位

ガスは、石油や石炭に次ぐ、世界で3番目に多く利用されているエネルギーです。日本においても、ガスは、エネルギー消費量の約10%を占める、重要なエネルギー源となっています。

20世紀に入ると、ガスは電力や石油と並んで主要なエネルギー源の一つとなりました。特に、都市ガスの普及により、多くの家庭や産業でガスが利用されるようになり、日本のエネルギー供給の多様化に寄与しています。

ガスのエネルギーとしての地位は、以下の理由により、今後も高まっていくと考えられます。
石油や石炭に比べて、二酸化炭素排出量が少ないため、環境負荷が小さい。
燃焼時に硫黄酸化物や窒素酸化物などの有害物質を排出しない
貯蔵や輸送が容易で、安定的に供給できる

ガスはその清潔性と効率性から、21世紀の環境問題が注目される中でも、引き続き重要なエネルギー源としての地位を保っているのです。


ガスの環境性

ガスは、石油や石炭に比べて、二酸化炭素排出量が少ないため、環境負荷が小さいエネルギー源として注目されています。
特に、二酸化炭素の排出量は少なく、石油の約半分、石炭の約3分の1です。

また、燃焼時に硫黄酸化物や窒素酸化物などの有害物質の発生が少ないないため、大気汚染の防止にも貢献します。

日本では、地球温暖化防止策の一環として、ガスの利用拡大が推進されています。また、再生可能エネルギーとの併用によるクリーンエネルギーシステムの構築も進んでおり、ガスの環境面でのメリットがさらに強調されています


ガスの将来展望

ガスは、環境負荷が小さく、安定的に供給できるという利点から、今後も、日本のエネルギーミックスの中で、重要な役割を果たしていくと考えられます。
家庭:ガスコンロやガス給湯器の普及により、ガスの利用がさらに拡大していく。
産業:ガスボイラーやガスバーナーの普及により、産業におけるガスの利用が拡大していく。
発電:ガス発電の導入により、再生可能エネルギーと組み合わせた、脱炭素化を進める。

また、ガス事業者は、エネルギーの多様化や、脱炭素社会の実現など、さまざまな課題に取り組んでいく必要があります。

一方で、再生可能エネルギーへの転換が進む中、ガス業界も変化に適応していく必要があります。
将来の展望としては、バイオガスや水素などの新しい形のガスエネルギーの開発と普及が期待されています。これらのエネルギーは、環境負荷が低く、持続可能な社会の構築に貢献する可能性があります。

こうした新たな技術とガスの組み合わせにより、日本のガス産業は新しい時代へと進化していくことでしょう。
また、ガス事業者には、これらの課題に積極的に取り組むことで、日本のエネルギーの安定供給と、持続可能な社会の実現に貢献していくことが期待されています。



ガスは、私たちの暮らしや経済を支える重要なエネルギーです。

ガスが日本の社会と産業に果たしてきた役割は計り知れません。
そしてガスは、持続可能な社会を実現するための重要なエネルギーとして、これからも重要な役割を果たしていくことでしょう。




【参考資料】

経済産業省 都市ガスの安全

日本ガス協会






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この記事を書いた人

中川

環境開発学を専攻し、大学時代に交換留学で訪れた北欧でエコライフに目覚めました。帰国後、国内外のエコプロジェクトに参加し、サステナブルな食文化や食品ロス削減のヒントを発信しています。

監修者

文 美月

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は運動と長風呂。