昨年はクマ出没のニュースが格段に増え、流行語大賞に「アーバンベア」が選出されました。
アーバンベアとは山から降りて市街地に出没するクマを指します。
環境省はクマの適切な管理と人間との共存のため、ヒグマとツキノワグマを「指定管理鳥獣」に追加する方針を固めました。この措置は、2023年度中に実施される予定です。
では、なぜクマは市街地に出没するようになったのか? 私たちにできる対策や遭遇しないための対策・もし遭遇してしまったらどうするか? についてみていきましょう。
都心にクマが出没する背景
市街地にクマが出没するようになったり理由は主に3つあります。
気候変動
気候変動はクマの生態系に大きな影響を与えています。気温の上昇が早くなり、春の訪れが早まることで、冬眠から目覚めたクマが自然界で食料を見つけるのが難しくなります。
研究によると、生息地の平均気温がわずか1度上昇するだけで、食物連鎖に重大な変化が生じるとされています。
環境破壊
熊の生息域である森林が都市開発やスギの植樹によって縮小され、食料源を求めて人里に降りてくるためです。
森林の減少はクマの生活圏に深刻な影響を及ぼしています。針葉樹であるスギを植えることで広葉樹が中心であった自然の森林が縮小したことでクマの食料源であるどんぐり等の木の実や昆虫が不足し、彼らの生息地が脅かされています。
研究によれば、過去10年で20%の森林が失われた地域では、クマの出没頻度がそれ以前と比較して40%増加しているという報告があります。
森林の減少はクマを都市部に押し出し、人間との遭遇を増やす原因になっています。
高齢化・過疎化
過疎化が進む地域では、クマの出没が増加する傾向にあります。
林業や農業に従事する人の高齢化により、手入れされずに放置された森林や耕作放棄地が増え、人間の野生動物の住処の境界線があいまいになっているためです。
特に過疎化により放置された農地や果樹園は、クマにとって魅力的な食料源となります。実際に、過疎化が進む一部地域では、クマの目撃情報が前年比で50%増加しているという報告があります。
クマの生態
日本では北海道ではヒグマが、本州以南ではツキノワグマが生息しています。世界にはほかにもクマは生息していますが、この2種について紹介します。
ヒグマ・ツキノワグマに共通するのが行動パターンは個体差が大きいことです。特に子連れのメスや食料を探している若いオスのクマは、予測不能な行動をとりやすいとされるなど、状況・個体に応じて対応する必要があります。
北海道のヒグマ
- 体重: 成獣で平均250~300キログラム、大きい個体では500キログラム以上に達することもあります。
- 体長: 約180~250センチメートル。
- 捕食するもの: 果実、木の芽、根などの他に、魚類(特に鮭)、小動物を食べます。
- 1年のサイクル: 冬季には冬眠に入ります。春に目覚めた後は、活発に食物を探し、秋には冬眠に備えて脂肪を蓄えます。
- 走るスピード: 最高時速は約50キロメートル程度に達します。
積雪が少ない年は、ヒグマが早く冬眠から覚め、食料が不足している春先により多くの活動を強いられます。このため、ヒグマがより長い期間、食料を求めて人里近くをうろつくことになるのです。観測データは、最近の数年間で春の出没回数が増加していることを示しています。
本州以南のツキノワグマ
- 体重: 成獣で約60~200キログラム程度。
- 体長: 約120~140センチメートル。
- 捕食するもの: 主に果実、木の芽、根などですが、昆虫や小動物も食べます。
- 1年のサイクル: 冬眠を行うことが知られており、秋に食物を大量に摂取して脂肪を蓄え、冬の間、活動を休止します。
- 走るスピード: 最高時速は約40キロメートル程度。
気候変動により、冬の暖かい日が増えることで、本来冬眠しているはずのクマがみられることが報告されています。またクマは木登りが得意・走るのも速いなど、人間では到底かなわない運動能力を備えています。
市街地におけるクマの行動
市街地でのクマ遭遇事例
住宅街や公園など、日常生活の中でのクマとの遭遇事例が報告されています。
懸念されているのが、警戒心が低下し、人間を恐れずに接近するケースです。自治体では、クマの目撃情報を収集し、市民への注意喚起を充実させる動きが加速しています。
特に市街地におけるゴミの管理が不十分な場合、食べ物の匂いに引かれてクマが出没しやすいと言われています。実際、環境省の調査によると、クマの市街地への侵入はゴミ出し日に集中していることが分かっています。
(参考:環境省 クマ類の出没対応マニュアル)
画像出典:https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/pdfs/manual_full.pdf
2023年のクマ出没状況
2023年は、クマの出没が特に活発になった年として記録されています。
最新のデータによると、都市周辺部での目撃情報が前年比20%増という報告があります。この増加は、開発による生息地の縮小と、春の食糧不足が原因と見られています。
また、農地や住宅地への侵入による被害報告も増えており、地方自治体は対策会議を頻繁に開催しています。
クマが出没する地域の安全対策
クマの生態や遭遇時の対応を市民に周知すること、共存への理解を深めたうえで下記のような対応をする必要があります。
クマの情報管理
クマの出没場所や生育数などの最新の情報を得ることは対策をするうえで重要です。
北海道ではツキノワグマの生息密度を調査し、特定の地域での個体数の増加を把握することで、市街地への侵入を未然に防ぐ取り組みが行われています。また、生息数の調整のため、捕獲や避妊手術などの人道的な方法が模索されています。
ゴミの管理
最近の研究では、クマの行動範囲内にある住宅地でのゴミの管理を徹底することが、個体による被害を減らす上で効果的であると指摘されています。
クマによる被害を未然に防ぐためには、地域住民への啓発と環境整備が重要です。住民には、ゴミを適切に管理し、クマを引き寄せないようにするための指導が行われています。
住み分け
人とクマの住処をしっかり分けるための取り組みが必要です。
ドングリなどクマの食べものが山中に十分あれば、クマが人里へ出る必要性を減らせます。さらに、農地や住宅街に近い森林でドングリやその他のクマの食料を適切に管理することで、クマが食料を求めて移動する距離を減らす努力も見られます。
また、果樹園や畑周辺に電気柵を設置することで、クマの侵入を防ぐ試みが成功しています。実際に、こうした対策を行った地域では、クマによる被害が前年比で30%近く減少しているとの報告があります。
山間部ではクマの天然の食料源を保護し、彼らが人里に降りてくる必要性を減らす取り組みが行われています。
捕獲と駆除
クマの出没が問題となる地域では、捕獲や駆除が最終手段となっています。
捕獲したクマを保護したのちに自然に戻す場合、他の地域への問題の転嫁を防ぐために、適切なリリース地点の選定が求められます。
人への安全性を優先し、どうしても駆除せざるを得ない場合も、生態系への影響を最小限に抑えることを考える必要があります。統計によると、適切な管理の下で行われた捕獲・駆除は、クマの人里への侵入率を25%低下させたとされています。
クマに遭遇しないために
遭遇しないためには
クマが出没しやすい地域では、外出時に鈴やラジオなどの音を発するものを持ち歩くことが推奨されています。これにより、クマに自分の存在を知らせ、突然の出会いを避けることができると言われています。
もしも遭遇してしまったら
クマと遭遇した際には、落ち着いて行動することが肝心です。
クマに背を向けて走り去ることは避け、ゆっくりと後ずさりしながら、大きな声を出してクマを威嚇します。また、クマスプレーのような防御道具を携帯することも有効です。
重要なのは、クマに挑戦的な態度を取らず、可能な限り距離を保ちましょう。
まずはクマについて理解しよう
また、クマとの遭遇に備えて、自治体や地元の猟友会が開催する安全教室に参加することも有効です。これらの対策は、クマと人間の安全な共存に向けたものです。
クマの被害をこれ以上増やさないために
このブログでお伝えしていた通り、クマが市街地に出没するようになったのは人がクマの生育地を荒らしたり、気候変動が大きく影響しています。
私たち人間はクマの行動の変化に人間が起因していることを知った上で
●温暖化対策をする(特に省エネを心がける)
●日常生活でもキャンプなどのアウトドアでも、ゴミや食品について適切に管理する
●できる限り1人で山間地に行かない
などの行動をする必要があります。
私自身、実は北海道とカナダで何度かクマに遭遇しているのですが、熊鈴は効果ありませんでした。運よく大人しいクマと遭遇・または向こうが気付かなかったため、今も私は元気に生きておりますが、もし襲い掛かってきたと考えると恐ろしいです。
クマの行動は個体差があり、遭遇した場合の対処は大変難しいのが事実です。
日本には熊森協会というクマとの共存を目指して活動している団体もあります。
そうした団体の活動に参加したり、寄附するのも一つの対策となります。決して「駆除」を前提にするのではなく、「共存」を目指していきたいですね。
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