ロスゼロブログ

カテゴリ一覧

食を守る選択肢:二季化が進む中で私たちにできること

公開日: 更新日:2025.11.30
1本の期の左が夏、右が冬

気候の変化が食卓に与える影響は、これから少しずつ私たちの暮らしにも姿を見せ始めます。

野菜や魚のとれ方が変わったり、価格が上下したり
そんな小さな“違和感”が、実は大きな流れのサインかもしれません。

後半では、二季化が引き起こす食料価格の動きや食品ロス、そしてこれから広がる新しい食のスタイルについて、できるだけわかりやすく見ていきます。


食料価格はどう動く?

積みあがる小銭と上昇する矢印

農作物不作による価格高騰

最近、スーパーに行くと、同じ野菜でも日によって値段が大きく違うと感じませんか。これは、二季化による異常気象が直接引き起こす「農作物不作」が原因で、私たちの食卓に価格高騰という形で重くのしかかっているからです。

長すぎる猛暑日や突発的な豪雨は、作物の生育不順や品質劣化を招き、結果として収穫できる量が激減してしまいます。需要が変わらないのに供給が減れば、当然、価格は跳ね上がります。例えば、キャベツやレタスといった葉物野菜は天候の影響を受けやすく、気象庁が異常気象の発生を発表するたびに、価格が2倍、3倍になることも珍しくありません。

農林水産省によると、2023年の猛暑の影響で一等米の比率は全国平均で約60%に落ち込み、品質の低下が価格に直結しました。気温が高い年は稲の登熟(米の実り)に支障が出やすく、全国の米価は前年より約5〜10%上昇しています。野菜や果実でも、集中豪雨や高温障害による収穫量の減少が続き、特に葉物野菜では価格が平年比1.5倍になった時期もありました。

この価格の不安定さは、家計に負担をかけるだけでなく、特に低所得者層にとっては必要な栄養を摂ることすら困難にする「食料安全保障」上の深刻な問題にもつながっています。
食費を安定させるためには、企業による天候に左右されない栽培技術の普及や、多角的な供給源の確保だけではなく、計画的に食材を使う意識や、地元の規格外品を活かす取り組みがますます大切になっていくと思われます。


エネルギーコストの上昇

食料品の価格が上がる要因は、不作だけではありません。実は、二季化への対策や物流の維持にかかる「エネルギーコスト」の上昇も、私たちの食卓を脅かす大きな原因となっています。

気候変動への対策として化石燃料の使用を減らす動きが世界的に加速する中で、エネルギー自体の価格が高止まりしています。
農業ではビニールハウスの暖房や冷蔵庫、加工・輸送などに多くのエネルギーを使います。資源エネルギー庁のデータによると、電気料金は2020年比で約25%上昇し、燃料費も円安や原油高で大きく跳ね上がりました。

農家や食品工場、流通業者、特に冷蔵・冷凍輸送を担う「コールドチェーン」は電力依存度が高く、このエネルギーコストの上昇分を、最終的に製品価格に転嫁せざるを得ません。

エネルギー価格は気候政策や国際情勢の影響を強く受けるため、短期的な改善は見込みにくい状況です。農林水産省の調査でも、生産コストに占める燃料費や電気代の割合が増加傾向にあることが確認されています。この現象は、たとえ豊作だったとしても、生産から加工、輸送、販売に至るすべての段階でコストが増加するため、食料品の値段が以前の水準に戻りにくくなっていることを意味しています。


物流停滞と流通効率化

異常気象が激化すると、高速道路の閉鎖や飛行機の欠航、港湾機能の麻痺といった「物流停滞」が頻繁に発生し、食料の安定供給が滞りがちになります。2024年の台風シーズンには、西日本を中心に道路や港湾の被害で一時的に輸送が滞り、スーパーの野菜売場が空になった地域もありました。
鮮度が命の生鮮食品にとっては、物流の遅延はそのまま「品質劣化」や「食品ロス」の増加に直結し、結果的に価格を押し上げます。国土交通省の調査では、近年の豪雨災害による物流損失は年間で約1,000億円規模にのぼると試算されています。

この危機を乗り越えるためには、サプライチェーン全体の「流通効率化」が不可欠です。

近年、食品産業では、AIを活用した「需要予測」システムを導入し、仕入れや在庫管理を最適化し、「共同配送」する動きが加速しています。輸送ルートの最適化、鮮度保持技術の強化、地産地消の拡大など、ロスを減らす工夫が進んでいます。これにより、廃棄される量を減らし、無駄な輸送を防ぐことが期待されています。
また、「鮮度保持技術」の進化や、「賞味期限延長」に向けた取り組みも、物流停滞によるリスクを軽減する重要な手段です。

私たちは、少しでもロスを減らしてコストを抑制しようと努力している食品産業の取り組みに注目し、例えば、多少形が悪くても品質には問題ない「規格外」の農産物を積極的に購入するなど、消費者意識を変えることで、この効率化の動きを後押しすることができます。


廃棄増/食品ロスの影響

最新サプライチェーンのイメージ

規格外の増加と品質の劣化

気温の上昇や豪雨、長引く猛暑などの異常気象は、畑で育つ作物に大きな負担をかけ、見た目や品質にばらつきが出やすくなっています。

例えば、2023年の夏には高温の影響で果物の表面が焼けたり(「日焼け果」)、柔らかくなりすぎたり(「軟化果」)する例が多く見られました。その結果、市場で売れない「規格外品」が例年より約2割も増えたとされています。これらは見た目が少し悪いだけで、味や栄養にはほとんど問題がありません。しかし、小売店では「見た目が揃わないと売れにくい」という理由で仕入れを避ける傾向があります。

また、収穫後の急激な気温変化や輸送中の高温にさらされることで、品物が店頭に並ぶ前に傷んでしまう「品質劣化」も頻繁に起こっています。

異常気象が常態化する中で、「形がいびつ」「色が少し悪い」というだけで捨ててしまうのは、食べ物も、生産者の努力も無駄にしてしまうことになります。消費者としては、完璧な形や色合いを求めがちですが、これからは「多少形が悪くても、味は変わらない」という柔軟な消費者意識を持つことが、このロスを減らすための第一歩となり、環境への負荷を減らす大きな力になります。


サプライチェーン再構築

異常気象による収穫量の変動は、生産者から消費者までの食料の流れ全体、すなわち「食品の供給網=サプライチェーン」全体に波紋を広げています。従来のサプライチェーンは、安定した四季と気候を前提に設計されていましたが、今は作柄変動や物流停滞のリスクが日常茶飯事となっています。
例えば、2024年の台風被害では物流停滞によって一部の倉庫で冷蔵在庫が期限切れになり、食品メーカー数十社が廃棄を余儀なくされました。

こうした損失は経済的だけでなく、CO₂排出の観点からも無視できません。廃棄食品1トンあたりのCO₂排出は約1.9トンといわれ(農林水産省調べ)、大量廃棄は環境負荷の増大にもつながります。

そのため、食品業界ではITを活用した革新的な取り組みが進んでいます。AIによる需要予測や共同保管、返品ルールの緩和など、持続可能な流通設計へのシフトです。
特に注目されているのが、AIによる「需要予測」の高度化です。過去の販売実績だけでなく、その日の天気予報や気温、そしてSNSのトレンドなども加味してAIが需要を予測することで、必要な量だけを生産・発注できるようになり、過剰在庫による廃棄を大幅に削減できます。

さらに、「コールドチェーン」の強化や、「鮮度保持技術」の進化も重要です。流通の温度管理を徹底し、加工品には「賞味期限延長」技術を適用することで、食品が傷むことなく、より長く、遠くまで届けられるようになります。

気候変動に“振り回されない仕組み”をつくることが、企業の競争力であり、環境保全への責任でもあります。私たち消費者もその変化を支える一員なのです。


フードバンクの持続可能性

食品ロス削減の現場で欠かせない存在が「フードバンク」です。まだ食べられるのに流通できない食品を回収し、福祉施設や子ども食堂に届ける活動は全国で広がり、2023年の登録団体数は530を超えました(フードバンク推進協議会調べ)。

二季化による規格外の増加や、流通効率化の過程で生まれる「見切り品」の増加は、フードバンクに提供される食品の量を増やす可能性がある一方、その活動自体の「持続可能性」が問われています。なぜなら、フードバンク活動は食品を集めるだけでなく、それを仕分け、衛生的に保管し、適切な場所に配送するための人手や倉庫、輸送といった「エネルギーコスト」が必要だからです。

日本では、食品ロス削減推進法の施行後、フードバンクへの認知度は上がりましたが、ボランティアや寄付金への依存度が高く、安定した運営基盤を確立している団体はまだ少ないのが現状です。ボランティア頼みの体制では限界も見え始めています。

それでも、「もったいない」を「ありがとう」に変える力がフードバンクの魅力です。企業からの安定的な提供と、活動を支えるための公的支援や寄付の仕組みづくり、デジタルマッチングの強化など、支える輪を広げることが、持続可能な食のセーフティネットを築く鍵になると感じています。


食文化の移り変わり

春と秋を背景にした山菜ときのこ


季節外れの旬と食文化

日本では伝統的に春の山菜、秋のきのこ・果実など、「旬=季節ごとに味わう恵み」が食文化として根付いています。

しかし近年、気候変動などの影響で、私たちの食卓では「季節外れの旬」という不思議な現象が起きています。温暖化によって作物の生育サイクルが狂い、本来は秋にピークを迎えるはずの野菜が、真夏に大量に収穫されるなど、“季節外れに収穫される野菜・果実”が増え、旬の感覚が曖昧になりつつあるのです。

これにより、伝統的な食文化の基盤が揺らいでいます
例えば、日本の繊細な懐石料理や郷土料理は、その季節に最も美味しい食材を使うことで成立してきました。しかし、温暖化によって特定の魚の漁獲量が激減したり、昔ながらの品種が栽培できなくなったりすると、これらの料理を構成する要素が失われてしまいます。私たちは、季節の移り変わりを五感で楽しむという、日本の食文化の重要な側面を失いつつあるのかもしれません。

一方で、この変化を逆手に取り、温暖な気候に適した新しい食材や、南国系のフルーツを日本で栽培するといった新たな試みも始まっています。例えば、これまで南国でしか育たなかったマンゴーやパッションフルーツ、ドラゴンフルーツなどが、九州や四国、東海地方などで栽培されるようになっています。さらに、トマトやレモンなどを一年中栽培する技術も発達し、「新しい日本の旬」が生まれつつあります。

つまり、「旬が変わる」ということは、失われるだけでなく、新しい“おいしさ”が生まれるチャンスでもあるのです。これからの時代は、昔ながらの食文化を大切にしながらも、気候や環境に合わせて柔軟に変化していくことが大切なのではないでしょうか。


サステナブルフード拡大

長くなった夏、短くなった冬という“二季化”の気候変動は、食材の生産・流通・消費の在り方にも影響を及ぼしています。そこで注目を集めているのが地球環境に配慮した「サステナブルフード」です。これは、単にオーガニック食品を選ぶということだけでなく、地球の資源を使いすぎずに、持続可能性の高い方法で生産された食品全般を指します。

具体的には、大豆などから作られた代替肉や、水や土地の利用効率が高い昆虫食、そして環境負荷の低い栽培方法で育てられた農産物などが注目されています。特に代替肉の市場は、畜産によるメタンガス排出という環境問題への意識の高まりから、世界的に拡大傾向にあります。
また近年では、地元で生産された規格外野菜を価値化する“アップサイクル食品”、廃棄予定だった果実を使用した加工品など、循環型のモデルも少しずつ広がっています。

こうした動きは食品ロスを減らすだけでなく、気候変動適応型の食育にもつながっています。旬がずれやすい今だからこそ、年間を通じて安定的に栄養を確保しながら、環境負荷を抑える“選択”が消費者にとっても重要になっています。
私たちの食文化は今、「地球とともに食べる」という意識へと、確実に進化しているのです。


消費者意識と家庭対策

二季化の時代、食卓を守る最後の砦は、私たち一人ひとりの「消費者意識」と「家庭対策」です。気候変動による作柄変動や価格高騰は避けられませんが、賢い買い物や調理の工夫で、その影響を最小限に抑えることは可能です。

まず、食品ロスを減らすことが最大の家庭対策です。
消費者庁の調査でも、家庭から出る食品ロスの原因の多くは「食べ残し」や「手つかずの廃棄」であることがわかっています。AIによる需要予測が流通の最適化を進めるように、家庭でも冷蔵庫の中身を正確に把握し、必要な分だけを買う在庫管理の徹底が求められます。さらに、多少形が不揃いでも品質に問題のない農産物を積極的に選ぶ姿勢や、購入した食材を無駄なく使い切る調理の工夫も重要です。

そして何より大切なのが、「消費者意識」です。
気候変動によって食材の安定供給が難しくなる今、私たちがどんな食品を「選び」「使い」「食べる」かが、社会全体の食の未来を左右します。見た目よりも中身や生産者の努力に目を向けること、環境に配慮した商品やアップサイクル食品を選ぶことなど、日々の小さな選択が持続可能な食文化を支える力になります。

つまり、二季化の時代における消費者の意識と行動こそが、気候変動に強い食卓をつくる“最後の砦”なのです。


「二季化」という言葉は少し難しく聞こえるかもしれませんが、その影響はすでに私たちの毎日の食卓に現れています。

気候に合わせて柔軟に変化する農業、環境にやさしい商品を選ぶ消費者、そして食品ロスを減らす家庭の努力──。

これからの旬は、「季節の恵み」だけでなく、「地球への思いやり」を味わうこと。
私たちの小さな選択が、持続可能な食卓をつくっていくのです。




同じカテゴリの他の記事はこちら

ロスゼロブログ一覧へ

この記事を書いた人

中川

環境開発学を専攻し、大学時代に訪れた北欧でエコライフに目覚めました。帰国後、国内外のエコプロジェクトに参加し、サステナブルな食文化や食品ロス削減のヒントを発信しています♪

監修者

文 美月

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は運動と長風呂。