(出所:UNEP『UNEP Food Waste Index Report 2021』)
こんにちはサステナブルライターの山下です。
今回は視点を広げて世界の食品ロスの状況をみてみましょう。
3月4日、国連の補助機関であるUNEP(国連環境計画)が、初の世界の食品ロスに関するレポートを発行しました。
レポートでは、これまで常識だと思われていた“あること”が間違いだったと判明しました。
果たして、レポートが明らかにしたこととは何だったのでしょうか?
「Food Waste」と「Food Loss」の違い
UNEPが発表したレポートのタイトルは
「UNEP Food Waste Index Report 2021(世界の食品ロスの統計)」です。
レポートの中身に入る前に
「Food Waste」と「Food Loss」の違いを整理しておきましょう。
同じく国連の機関であるFAO(国際連合食糧農業機関)は、「Food Waste」と「Food Loss」をそれぞれ次のように定義しています。
(出所:FAO『Technical Platform on the Measurement and Reduction of Food Loss and Waste』)
上図の文章を直訳すると、次の通りです。
- Food Lossとは、小売業者、外食産業提供者、消費者を除く、サプライチェーン内の食品供給業者による決定と行動に起因する食品の量または質の低下
- Food Wasteとは、小売業者、外食産業提供者、および消費者による決定と行動に起因する食品の量または質の低下
少し難しい表現ですが、
「Food Loss」は食品の供給事業者が発生させるもので、スーパーマーケットやレストラン、一般家庭などは含まれません。
一方、「Food Waste」はスーパーマーケットやレストラン、一般家庭などで
発生するものを指します。
このように、食品の流通工程のどこで発生するかによって呼び方が異なります。
すべての工程で発生したものを指す場合は「Food Loss and Waste」と呼ばれています。
FAOの定義によると「Food Waste」は小売業者、外食産業、消費者によって捨てられる食品だとわかりましたので、この記事では、Food Waste=食品ロスと訳すことにします。
世界の食糧生産の17%が捨てられている事実
さて、前置きが長くなりましたが、冒頭の「UNEP Food Waste Index Report 2021(世界の食品ロスの統計)」によると、
2019年の世界全体の食品ロスの量は9億3100万トンでした。
内訳は下図の通りですが、
家庭(Household)からが61%、外食産業(Food service)からが26%、小売部門(Retail)からが13%と、家庭からの発生が多いことがわかります。
(出所:UNEP『UNEP Food Waste Index Report 2021』)
試しに、
この9億3100万トンの食品ロスを40トントラックに載せてみましょう。
全部載せたとすると、実に2300万台分のトラックが必要になります。
2300万台のトラックを並べると、なんと地球を7周する距離になる
というから驚きです。
さらに驚くことには、
この量は世界の食料生産の約17%に相当するとされています。
世界中で生産された食料の約2割近くがムダに捨てられているという事実が浮かび上がりました。
FAOが2011年に集計した前回のデータと比較すると、外食産業における食品ロスがほぼ倍増しているとのことです。
地域別・国別の食品ロス発生量とは?
では、ひとりあたりの食品ロスの年間発生量を地域別にみてみましょう。下表では、日本は「Eastern Asia」に含まれます。
地域によってばらつきがありますが、
北米やヨーロッパなど先進国の多い地域よりも、アフリカや西アジアなど途上国の多いエリアの数値が高いことが読み取れます。
(出所:UNEP『UNEP Food Waste Index Report 2021』)
先進国の食品ロス発生量が多いとは限らない?!
家庭からの食品ロス発生量を国別にみると、
日本はひとりあたり64kg・年でした。
アメリカは59kg、フランスは85kg、ドイツは75kg、イギリスは77kgとなっています。
一方、ヨーロッパではマルタが129kg、ギリシャが142kg、アフリカではナイジェリアが189kg、ルワンダが164kgなど、100kgを超えた3桁の国もあります。
もちろん国によって集計方法やデータの信頼度が異なるものの、非常に興味深い結果となりました。
食品ロスの問題は先進国に限らず、世界全体で起こっている問題だったのです。
これまでは、食品ロスは一部の豊かな国の抱える問題だと考えられてきました。
しかし、今回のレポートによって、その常識が大きくくつがえされました。
国連は、2030年までに世界の食品ロスを半減させるという目標を立てています。
そのためには、一部の国だけでなく世界全体で取り組む必要があるということが示されました。
世界の温室効果ガスの約1割が食品ロスに関連
食品ロスは、気候変動とも深い関わりを持っています。
食物を育てるには土地や水といった資源が必要です。
たくさんの資源を使ってつくられた食料がムダに捨てられるということは、資源の無駄遣いをしているに等しいのです。
実際に、世界全体の温室効果ガスのうち、8%から10%が食品ロスに関連しているといわれています。
イギリスでは、3月1日から7日を「食品ロス・アクション・ウィーク」として、気候変動と食品ロスの関連を訴える初のキャンペーンが実施されました。
このキャンペーンには世界中の多くの企業が賛同し、日本からもパナソニック株式会社がサポートしています。
(『食品ロス・アクション・ウィーク』の紹介動画。出所:WRAP Food Waste Action Week)
キャンペーンでは、ソーシャルメディアを通して
食品ロスを減らすアイディアをシェアするコンテストが行われました。
参加者が食品ロス削減の取り組みをインスタグラムに投稿すると、抽選で冷蔵庫やギフトカードなどが当たるという内容でした。
このキャンペーンは2022年も予定されているとのことです。
(参考:WRAP Food Waste Action Week)
食品ロスは全世界共通の課題
今回のUNEPのレポートは、
食品ロスは先進国だけの問題ではない
ということを明らかにしました。
全世界で共有し、解決に向けて動いていかなければならないという認識が新たにされました。
このレポートをきっかけに、
今後はイギリスのように食品ロス削減のためのアクションも増えていくと予想されます。
食品ロスの削減は全世界に共通のミッションとはいえ、画期的な技術の登場で解決するような問題ではないでしょう。
家庭からの食品ロスをなくすには、やはり私たちひとりひとりの行動がカギを握るのです。
食べ残しや期限切れなどによる廃棄をなくし、調理中の皮の剥きすぎなどにも注意するといった、地道な心掛けこそが世界をよりよくする一歩です。
私たちの毎日のアクションが世界を変える可能性を持つと意識して、日々を暮らしていきたいですね。
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