こんにちは!学生インターンの西村です。
今年は寅年!
トラは、多くの人にとって、動物園などで見たことがあるなじみ深い動物ですよね。
しかし、その知名度とは裏腹に野生の個体数はとても少なく、絶滅の危機に瀕しています。
生物多様性の保全はSDGsの一つでもあります。
ということで、今回はトラの保護についてお話ししたいと思います!
トラってどんな動物?
トラは明るい茶色に黒の縞が特徴的な、大型ネコ科動物です。
学名をPanthera tigrisと言います。
生息する地域によって8つの亜種が存在しており、それぞれ大きさや見た目が異なっています。
頭から尾の付け根までの長さが150-300cm、尾の長さは70-110cm。体重は約75-250kgですが、北方に生息する個体ほど大きく、中には300kgを超えるものもいます。
この北方の亜種はアムールトラと呼ばれ、ネコ科動物最大のものです。
個体数の7割が生息するインドをはじめとして、ロシア、インドネシア、マレーシアなどアジアの11カ国に生息していることが確認されています。
トラは基本的に単独行動をする動物で、縄張り意識が強く、テリトリーに侵入してきた他の動物を攻撃することもあります。また、生息地を守るために人間を襲うこともあるため、野生動物として警戒すべき動物です。
夜行性で、主に薄明薄暮時に活動します。
日本では「百獣の王」と呼ばれ、力強さと勇気の象徴として知られています。また、中国では、幸運と富の象徴とされています。
数を減らすトラ
ほんの100年前まで、アジア全体に10万頭以上のトラが生息していました。
しかし生息地の減少や密猟などを原因として減少の一途をたどり、現在では約3900頭が、インドを中心とした、かつての生息地の4%のみに生息しています。
日本でも1905年、北海道で最後の野生のトラが捕獲されて以来、絶滅したとされています。
IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは、Endangered(絶滅危惧種)に分類されています。
個体数減少の原因
トラの個体数を減少させる大きな原因は生息地の減少と密猟です。
トラの生息国では、オイルプランテーションなどの目的で森林が開発されています。
トラは広い行動圏を持ちその中で獲物を捕らえて生きているため、森林開発で生息域が狭まるともはやそこで生きていけなくなってしまいます。
また、その美しい毛皮や漢方の材料としての臓器のため、長らくトラ狩りが行われてきました。
現在、トラの生息国ではこのような狩猟は禁止され、1975年以降ワシントン条約により、トラの部位の国際的な取引も禁止されています。
しかし今でも特に漢方としての需要から闇取引が横行しており、密猟がトラの生活を脅かしています。
潜入!トラ闇取引の現場、解体して販売|ナショナルジオグラフィック
これを読めばトラ博士?!絶滅危惧種トラの生態や亜種数は?|WWFジャパン
トラを保護する理由
トラがいなくなったら何が起こるのでしょうか。
もしトラがいなくなれば、トラが捕食していたシカやイノシシなどの大型草食動物が増加し、その地域の植物が食い荒らされてしまうでしょう。
すると、次にそれらの植物を食物や住処としていた昆虫や小動物、鳥などがいなくなるかもしれません。
これらの小さな動物がいなくなれば、それらに受粉や種子の運搬を頼っていた植物も消えていくでしょう。
生物と環境はそれぞれが複雑に結びついているため、たった1つ歯車を失ってしまうと全体が崩壊して機能しなくなる恐れがあります。
このように、その生態系を保つために特に重要な役割を担っている生物を、石橋を作る時の要石にたとえて「キーストーン種」と呼びます。
野生のサケを守れ、さまざまな取り組みがカナダで進行中|ナショナルジオグラフィック
(画像:Some Animals Are More Equal than Others: Keystone Species and Trophic Cascades-biointeractive | YouTubeより)
また、トラは餌となる草食動物が充分生息する、広大な土地を必要とします。
裏を返せば、トラが生息する土地は、トラを支えられるだけの草食動物と、その草食動物を支えられるだけの植物が存在する、豊かな環境であると考えることができます。
つまりトラが健やかに生きていける環境を守ることは、そこに暮らすすべての生物が健やかに暮らせるzい生息地を守ることにつながるのです。
このように、その動物を守ることでその土地に生きる他のたくさんの生物を守ることができる、という動物を大きく広げた傘にたとえて「アンブレラ種」と呼びます。
なぜトラを守る?かわいいだけじゃない重要な役割とは|WWFジャパン
トラを守るための取り組み
前回の寅年である2010年、世界のトラの生息数は3200頭という過去最低の水準に達しました。
もはや今までの手法ではトラの減少を食い止めることはできないとして、トラが生息する13か国の政府機関が一堂に会し、次の寅年である2022年までに野生のトラの数を倍増させるという目標を設定しました。
その目標が共有された元で、研究機関、NGOなどの関係機関が一体となってトラの保護が行われています。
トラを守るためには多角的な対策が必要です。
動物の保全は社会的な要因も深く関わってくるため一筋縄ではいかず、本当に多大な努力と全ての関係者の協力が必要だと強く思います。
トラが生息しやすい環境を作るには
まず生息地の保全が大切です。
動物の保護というと動物園などで繁殖させ野生に戻す、などが想像されるかもしれませんが(生息域外での保全活動のことを域外保全と言います)本来の生息地なくして動物の保護をすることはできません。
また、たとえある程度の大きさの保護区が確保できたとしても、大きな道路で分断されていたり、飛び石状だったりすると動物は行き来ができず、遺伝的な多様性が減少してしまい環境の変化や病気に弱くなってしまいます。
これを解消するために、飛び石状の生息地を動物が行き来できるように緑の回廊と呼ばれる、生き物の通り道を設置することが行われます。
スマトラ島で、トラの親子の映像撮影に成功!| WWFジャパン
密猟を取り締まることも重要です。
トラの生息地ではレンジャーと呼ばれる人たちが森の中を歩き回って、罠を一つ一つ見つけて壊したり、密猟が頻繁に行われるエリアをパトロールしたりしています。
密猟をなくすには、それを引き起こす原因となる闇取引を取り締まることが必要です。
毎年平均で124頭のトラの死体が押収されるそうです。
また、トラ農場で飼育されているトラの取引も、毛皮や臓器の需要を刺激し野生下の個体までもを危機に晒すため、これをなくすために保護団体が働きかけています。
生息地の保全も密猟の取り締まりも、現地に暮らす人々の協力がなければ成り立ちません。
一方的に土地を区切ったり規制をかけることは、現地の人々の生活を苦しめ、トラとの軋轢を新たに生じることにつながります。
人々が農業や畜産を営みながら、トラの生息地で安全に共存できるように、密猟をしなくても暮らせる収入を得られるように、生活環境や社会システムを整えることが必要です。
この一つの手段として、自然を観光資源としたエコツーリズムなどがあります。
Travel - Wildlife Tours and Nature Trips | WWF
Doubling Wild Tigers 2020 Annual Report - Prepared by WWF Tigers Alive and designed by Kazi Studios
ようやく見えた回復の兆し
2016年、今までで初めてトラの生息数が増加したことが明らかになりました。2010年に3200頭以下だった個体数が、3890頭まで増加したそうです。
紛れもなく懸命な保護活動の成果だと思います。
このまま順調に回復していくことを願っています。
WILD TIGER NUMBERS INCREASE TO 3890 | WWF
まとめ
私は昔から動物が好きでした。
中でも心を捉えて離さないのが、トラをはじめとする大型ネコ科動物です。
しなやかな体や鋭い目、体についていく長い尻尾など、あれほど美しい生き物はいないと思います。
昔の中国では、東西南北4つの方角にそれぞれ青龍、白虎、朱雀、玄武という4つの聖獣が配されていました。
この中で唯一、白虎だけが実在する動物です。
それだけ昔の人はこの生き物に、他3つの霊獣と並べても霞まない神性や風格を認め、恐れ崇めていたのだろうと思いますし、その気持ちはとてもよくわかります。
いつか、野生のトラを見てみたいと思いますが、それと同時に、そんな風に彼らの領域に踏み込むようなことはしなくてもいいとも思います。
そもそもこの「見たい」という気持ちだって、散々彼らを脅かしてきた人間の征服欲や所有欲と同じ類のものかもしれません。
それなら、もし私が彼らを一生見ないし会わないとしたら、自分の領域で生きているこの生き物と私の間に、一体何の関係があるでしょうか。
実質的には何もないでしょうね。
けれど、私が電車に乗っているときに、学校にいるときに、ジャングルの茂みで息を潜めて獲物を狙っている一頭がいるかもしれない。
あるいは、母親の尻尾で遊ぶ子供がいるかもしれない。
そう思えるだけで、トラがいるこの世界はトラがいない世界よりも、ずっといいものに違いないと思うのです。
トラを守ることはその地域の生態系全体を守ることにつながるからトラの保護は大切だ、と書きましたが、それ以上に、この生き物がただこの世界に生きているということ自体が価値のあることだと私は思います。
私は、大型ネコ科動物がずっとこの世界に存在し続けてくれることを願っています。
微力ながらそのための一助になればと、Pantheraという大型ネコ科動物の保護団体に毎月少額ですが寄付もしています。
トラの保護についてより多くの方々に知っていただくのも、トラや他の生き物を守ることにつながるでしょう。
寅年の始めだったこともあり、この場でトラの話をさせていただきました。
最後までお読みくださりありがとうございました!
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