最近、ニュースなどで「マイクロプラスチック」という言葉を耳にすることが多くなってきました。
マイクロプラスチックが「魚やそれを食べる私たちの体に影響を与えるのではないか」と不安に思っている方もおられるのではないでしょうか。
そこで今回は、マイクロプラスチックとは何か、なぜ問題視されているのか、発生の原因などをわかりやすく解説しながら、私たちにできる対策をご紹介したいと思います。
今さら聞けない「マイクロプラスチック」とは?
マイクロプラスチックとは、5mm以下の小さなプラスチックのことを指します。
具体的にいうと、もともと微細なプラスチックのことを「一次的マイクロプラスチック」、大きなプラスチックが海や川の流れなどによって小さくなったものを「二次的マイクロプラスチック」と呼びます。
「一次的マイクロプラスチック」の代表的な例としては、私たちが使う歯磨き粉や洗顔料などのスクラブ(研磨)材として含まれているマイクロビーズがこれにあたります。
こうしたマイクロビーズはとても小さいため、排水溝を流れて海や川に流出することが心配されているのです。
また、一度流出してしまうと回収することはほぼできないとされています。
一方で、「二次的マイクロプラスチック」としてよく挙げられるのが、発泡スチロールなどのプラスチックごみです。
発泡スチロールなどは漁業や船舶などに使用されますが、使っているうちに破損したり流されたりして、細かくなっていきます。
そのため、こうした海洋プラスチックごみなどは「一次的マイクロプラスチック」になる前に回収して適切に処理することが重要だと考えられているのです。
(参考:環境省『プラスチックを取り巻く国内外の状況』)
なぜマイクロプラスチックが問題になっているの?
出典)環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」
マイクロプラスチックによる海洋汚染は、今、急速に世界中に広がっています。
上の世界地図では、濃い赤色で示した箇所ほど海洋のマイクロプラスチック量が多いことを示しています。
日本の周辺から太平洋、東南アジアからオーストラリア大陸周辺、大西洋など、広範囲に赤色の帯が広がっていることがわかります。
また、北極や南極でもマイクロプラスチックが観測されています。
このように、マイクロプラスチックは国境の垣根を越えた、全世界的な問題であると言えるのです。
毎年1月に開催され、各国の政府高官や著名人が参加するダボス会議は2016年、「2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量が魚の量を超過する」
という内容のシミュレーションを発表しました。
このままでは、文字通り“プラスチックの海”となって生態系へも影響を及ぼす危険性が指摘されており、世界各国では海洋のプラスチックごみやマイクロプラスチック対策を急いでいるところです。
(参考:環境省『プラスチックを取り巻く国内外の状況』)
マイクロプラスチックは人体に影響を与えるのか
このコラムを読んでくださっているみなさんは、「実際のところ、マイクロプラスチックは人体に悪い影響を及ぼすのか」ということが気になっているのではないでしょうか。
プラスチックそのものが化学的に有害というよりは、プラスチックは生物学的に分解されにくく、何年経ってもプラスチックとして残り続けるということが問題視されています。
一般的なプラスチックを分解できる微生物はほとんどおらず、プラスチックを一度取り込んでしまうと、そのまま体内に残ってしまうのです。
そのため、クジラやウミガメといった海洋生物がビニール袋などを誤って飲み込んでしまい、そのまま窒息して死んでしまうというケースが後を絶ちません。
一方で、マイクロプラスチックはとても小さいため、魚などが食べたとしても窒息することはないと考えられますが、逆に、微細なため体内に蓄積されやすいという問題があります。
マイクロプラスチックを食べた小魚をより大型の魚が捕食し、その魚を人間が食べるという食物連鎖によって、私たち人間の体内にもマイクロプラスチックが蓄積されるということが懸念されています。
これを「生物濃縮」と呼び、環境中のマイクロプラスチックよりも、体内などに蓄積されたマイクロプラスチックの濃度の方が高くなると考えられます。
実は、マイクロプラスチックが人体に与える影響については、研究の歴史が浅いため、必ずしも有害であるとは結論づけられていません。
しかし、マイクロプラスチックは、ダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニル)といった有害物質を取り込みやすいということが徐々に明らかになってきていると報告されています。
こうした研究が進むにつれ、人体へどのような影響があるかが判明してくると予想されますが、まったく無害であるとは言い切るのは難しいのではないでしょうか。
(参考:千葉商科大学『海が汚染され、海の生物も人も危ない! マイクロプラスチック汚染問題とは | MIRAI Times|SDGsを伝える記事が満載』)
人工芝やタイヤもマイクロプラスチックの原因に
私たちが日頃使っている歯磨き粉や洗顔料にも、マイクロプラスチックより微細なマイクロビーズが入っている場合があるということは先ほどお伝えしました。
しかし、ほかにも、私たちの身近なところにマイクロプラスチックの原因となる物質があることをご存知ですか?
例えば、グラウンドや河川敷などに敷かれた人工芝はプラスチック製のものがほとんどです。
こうした人工芝が劣化して千切れたものが、マイクロプラスチックとして河川に流れ、海へと流れ込んでいると考えられています。
京都大学発のベンチャー企業ピリカが首都圏と大阪府の11の河川を調査したところによると、すべての河川からマイクロプラスチックが発見され、その約4分の1が人工芝によるものだったという報告結果もあります。
(参考:一般社団法人ピリカ マイクロプラスチック 流出状況データベース)
また、自動車などのタイヤや衣服の繊維、ほかにも、道路の舗装材や建築用の塗料、船舶の塗料などからもマイクロプラスチックが発生していると考えられているのです。
国内では「プラスチック資源循環促進法」がスタート
こうした状況を受け、この4月から「プラスチック資源循環促進法」が新たに施行されました。
この法律は、プラスチックごみを減らし、プラスチックを資源として循環させることを目的としています。
そのため、いわゆる“使い捨て”のワンウェイプラスチック製品、つまりコンビニエンスストアなどで配布されるストローなどの使用を合理化するほか、プラスチック廃棄物の分別収集や再資源化などを求めています。
これによって、無料で提供されるプラスチック製品12品目(フォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー、ヘアブラシ、くし、カミソリ、シャワー用キャップ、歯ブラシ、ハンガー、衣類用カバー)を年間5万トン以上提供している小売店や宿泊施設、飲食店などは削減の取り組みが義務付けられることになりました。
(参考:環境省_プラスチック資源循環法関連)
海外ではどんなマイクロプラスチック対策が行われている?
海外でのマイクロプラスチック対策の事例として、イタリア政府は2020年1月より、マイクロプラスチックを含む洗顔料などの製造やマーケティングを禁止する計画を示しています。
これに違反した場合には、最大で25,000ユーロ(約340万円)の罰金を課すとしています。
また、2018年にカナダのシャルルボワで開催されたG7サミットでは、マイクロプラスチックの削減を掲げた「海洋プラスチック憲章」が承認されました。
スウェーデンの自動車メーカー・ボルボはこの憲章を指示することを表明し、プラスチックによる汚染を減らすために、新車にはリサイクル素材を積極的に使用することなどを宣言しました。
(参考:ボルボ・カーズ、G7海洋プラスチック憲章を支持 業界に先がけてプラスチック汚染削減を支援 | VOLVO CAR JAPAN PRESS SITE)
一方で、日本と米国は残念ながらこの「海洋プラスチック憲章」には署名していません。
(参考:環境省『プラスチックを取り巻く国内外の状況』)
私たちにできるマイクロプラスチック対策とは
私たち消費者ができることは、まず、買い物の際にはプラスチック容器の軽量化や包装の簡素化など、プラスチックごみの減量に配慮された商品を選ぶこと。
次に、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなどにはエコバックを持参し、不要なレジ袋やストロー、スプーンやフォーク、マドラーなどを受け取らないようにすることです。
また、スーパーマーケットで袋詰めする際の小分けするためのポリ袋の使用枚数も減らすように心がけましょう。
家庭内でも、ラップの使用を減らしたり、ゴミの分別に取り組んだりすることも有効だと考えられます。
近年は、洗濯によるマイクロプラスチックの流出を防ぐ洗濯ネットなども販売されています。
こうしたアイテムを活用するのも有効な対策ではないでしょうか。
(参考:マイクロプラスチックによる海洋汚染を防ぐ!アダストリアが洗濯時に繊維くずの流出を抑制)
気づかないうちに発生し、生態系への影響が懸念されるマイクロプラスチック。
私たちは、消費者としてなるべくマイクロプラスチックの発生につながらないようなアクションをとっていくべきだと考えられます。
まずは、日頃のお買い物の際の行動を見直し、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
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