「まだ食べることができる食品」がただ廃棄されてしまう現状に対し、政府は「食品ロス削減推進法」などの関連法の改正の動きを見せています。
さらなる食品ロス削減に向けた施策パッケージを年末までに策定する方針で、来年の通常国会での法改正を目指しています。
令和5年6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023」によると、今回の主な狙いは、フードバンクへの事業者の食品提供の促進とフードバンク団体の体制強化、食べ残しの持ち帰りの促進、賞味期限の在り方の検討です。
この法改正により、食品ロス削減がどのように進んでいくのか。そして今回はフードバンクに焦点を当てて、日本と海外のフードバンク活動の比較とこれからの展望について、一緒に見ていきましょう。
「食品ロス削減推進法」が改正される?
法改正で事業者の食品ロス対策の支援体制の強化が期待?
2023年の最新データによると、日本の食品ロス量は523万トンで、その内約53%が事業系食品ロスが占めます。(農林水産省「令和3年度推定値」)
関連法の改正では、食品ロス削減の方向性が具体的に示され、特に事業者の行動を起こすための法的な支援が期待されます。
今回の「経済財政運営と改革の基本方針2023」から、「食品の寄附やフードバンク団体の体制強化」の検討と記載があることから、食品関連事業者がフードバンクへ食品を提供する際、食中毒などの事故が発生した場合でも、事業者の責任が免除される仕組みを導入することが期待されます。
また、「食べ残しの持ち帰りの促進」からは、外食時に消費者が食べきれなかった食品の持ち帰りをしやすくする制度の整備が期待されます。例えば、食べ残しを持ち帰りした場合に食中毒や異物混入が発生しても、事業者側の責任は問われなくなる等、持ち帰りに関する具体的な制度の確立が見込めます。
さらに、「賞味期限の在り方」の検討では、食品業界の商慣習でもある「3分の1ルール」の見直し等が期待されます。
現在の日本の商流では、賞味期限の2/3残しを納品期限とする慣例があります。
しかし、アメリカでは1/2残し、フランスやイタリアでは1/3残し、イギリスでは1/4残しと、日本は他国と比べてかなり短いことがわかります。
法改正では、納品期限の引き伸ばしが期待されます。
法改正がもたらす社会への影響
【引用】読売新聞:「食品ロス」削減へ、食中毒など起きても事業者は免責…フードバンクへの食料提供を後押し
食品ロス削減推進法の改正は、我々の社会に大きな影響を及ぼすことが予測されます。食品が廃棄される現状が改善されれば、環境負荷の軽減だけでなく、食料危機における食料安全保障にも繋がります。
また、食品ロスの削減は、食品価格の安定化や地域経済の活性化にも寄与します。さらに、フードバンクへの食品提供が進むことで、貧困や災害などで支援が必要な人々への助けとなるでしょう。
法改正を通じて、食品ロス削減が社会全体の課題となり、その解決が持続可能な未来を作り出す重要な一歩となることを期待されます。
フードバンク提供の現状
フードバンクとは?
フードバンクとは、余剰食品を寄付で受け取り、貧困や災害に遭った人々などに再配分する組織のことを指します。
このフードバンクのシステムは、食品ロスの削減と社会的弱者の援助の両方を果たす役割を果たします。
フードバンク提供における事業者の責任問題
現在の日本の制度化では、食品をフードバンクに提供する事業者には、食品の安全性を保証する責任があります。
もし提供された食品により食中毒などの事故が起こった場合、事業者は損害賠償訴訟の対象となり、そのブランドイメージが大きく損なわれる可能性があります。
このリスクから、事業者が廃棄する剰余食品であっても、フードバンクへの寄付を控える傾向にありました。
フードバンクの業務実態と食品の横流し防止
現在のフードバンクの業務は「食品ロス削減推進法」の下で支援されています。日本におけるフードバンクの活動は急速に広がりを見せ、現在では全国で130以上のフードバンクが活動しています(農林水産省「フードバンクの現状について」)。
フードバンクは食品の横流し防止という課題にも直面しています。横流しとは、正規の流通ルートを通らず、不正に商品が流通することを指します。これを防ぐために、フードバンクは食品の受け取りから提供までのプロセスを厳しく管理し、トレーサビリティを確保しています。
食品の賞味期限や消費期限の管理も重要な課題です。多くのフードバンクは、食品安全に最大限配慮し、適切な温度管理や衛生管理を徹底しています。また、食品の配布先は必要性と食品安全に基づいて厳格に選定されています。
一方、フードバンクに提供される食品の量にも注目が必要です。供給過剰によるロス防止だけでなく、供給不足による飢餓解消もフードバンクの役割となっています。このバランスを適切に保つことがフードバンクの重要な業務の一つとなっています。
事業者によるフードバンクへの参加のメリット
事業者にとって一番大きな利点は、社会貢献を通じたブランドイメージの強化です。消費者の間で社会的な課題に対する関心が高まる中、企業のCSR(Corporate Social Responsibility)活動が重視されています。
ニールセンの調査によると、全世界の消費者の55%は、社会的・環境的に責任ある企業から製品やサービスを購入する意向があると回答しています("Doing Well by Doing Good", Nielsen, 2014)。
次に、食品ロスの削減は企業のコスト削減にも繋がります。フードバンクに食品を提供することで、廃棄にかかるコストを削減することが可能となります。
最後に、法改正により食品ロス削減の取り組みが義務化される可能性もあります。このような法的要件に先んじて対策を講じることで、企業は法的リスクを回避するだけでなく、そのリーダーシップを市場に示すことができます。
日本と海外のフードバンクの比較
海外のフードバンク提供は事業者に責務がない?
海外に目を向けると、特にアメリカでは、食品をフードバンクに提供する事業者に対する免責規定が存在します。これは、1996年に制定された「Bill Emerson Good Samaritan Food Donation Act」により、食品の寄付を奨励し、寄付による潜在的なリスクを軽減するためのものです。
事業者が善意で食品を寄付した場合、その食品が原因で食中毒などの損害が発生したとしても、事業者は一切の責任を問われません。この法律により、大量の余剰食品が社会に戻され、食料問題の緩和に寄与しています。
日本と海外のフードバンク提供食品の量の比較
日本と他の国々とのフードバンク活動の規模を比較すると、それぞれの国の食品ロス削減に対する取り組みの差が浮かび上がります。
フードバンクの活動が非常に活発な国として知られるアメリカでは、全体の食品ロスの約10%をフードバンクが回収しているとされています("Feeding America", 2023)。
アメリカではフードバンクが高い社会的認知度を持ち、様々なセクターから広範な支援を受けています。対して、日本ではフードバンク活動自体がまだまだ知られていないため、その活動の規模は必然的に小さくなります。
さらに、日本のフードバンクが回収する食品の多くが家庭からの寄付であり、事業者からの提供はまだ十分とは言えません。これに対して、アメリカのフードバンクでは、大手スーパーマーケットや食品製造会社からの大量の寄付があり、その結果として提供食品の量が増えています。
現在の「食品ロス削減推進法」の概要と課題
食品ロス削減推進法の概要
「食品ロスの削減の推進に関する法律」(略称 食品ロス削減推進法)は、消費者庁によって令和元年5月31日に公布され、同年10月1日に施行された法律です。
製造業者、小売業者、消費者など、食品ロスの全プロセスに関わるすべての関係者に対し、食品ロス削減への取り組みを推進しています。たとえば、賞味期限や消費期限の表示方法の見直しや、規格外野菜の利用促進などが具体的な取り組みです。また、食品ロス削減に取り組む企業や団体の表彰制度も設けられています。
この法律は、日本が「持続可能な開発目標」(SDGs)の目標12.3「2030年までに世界の食品廃棄物を半減させる」を達成するための手段として考えられています。そのため、食品ロス削減の取り組みは国の持続可能性に対する公約と直結しています。
「食品ロス削減推進法」の課題
しかし、「食品ロス削減推進法」にはいくつかの課題が存在します。
まず、この法律は努力義務となっており、具体的な罰則が設けられていないため、法律の効力が不十分であるとの指摘があります。
また、法律は食品ロス削減への取り組みを促しているものの、具体的な行動指針や標準が明確に設定されていないため、企業や消費者は何をすべきか混乱しています。
その結果、各事業者が自身の判断で行動する必要があり、結果的に全体としての効果が小さくなっている可能性が指摘されています。
今後の政府の食品ロス削減への動きに期待
私たちが取り組むべき食品ロス問題は深刻です。
特に、食品供給チェーンのさまざまなステージで大量の食品が無駄になっているという現状は、我々の資源と環境にとって大きな負荷をかけています。
だからこそ、「食品ロス削減推進法」の改正やフードバンク活動の推進が必要とされています。
一つひとつの小さな行動が集まることで、大きな変化が生まれます。
これからの食品ロス削減とフードバンク活動の推進に期待しましょう。
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