海の美しさは、その広大さと未知なる生命の宝庫によって数多くの人々を魅了してきました。しかし、その美しさは今、深刻な危機に瀕しています。
目に見えない小さなプラスチック片から、巨大な廃棄物まで。海には想像を超える量のゴミが漂流しています。海ごみと呼ばれるこれらのゴミは、美しい海を汚すだけでなく、海に住む生物たちにも深刻な被害を与えています。
海ごみゼロウイークを契機に、海ごみの現状、国際的な取り組み、そして私たちが未来の海を守るためにできることについて、一緒に考えていきましょう。
海ごみ問題の現状
海洋ごみ:種類と量、日本の現状
海に漂うごみの多くは、プラスチック製品が占めています。ペットボトル、レジ袋、漁具など、さまざまな形のプラスチックごみが海を漂っています。このプラスチックは分解されにくく、長期間にわたって海洋環境に留まり続けます。
2022年の推計によると、世界中の海に存在するプラスチックごみの量は約8000万トンと言われています。これは、東京ドーム約200個分の量です。
日本も例外ではありません。2020年の調査によると、日本の海岸に漂着するごみの約8割がプラスチックごみです。特に多いのが、ペットボトルやレジ袋です。国内で年間に消費されるプラスチック容器・包装の量は約900万トンにも上り、その一部が海に流出するという現実があります。
これらのごみがどのようにして海に到達するのか、そしてその量が今後どのように変化する可能性があるのかを知ることは、問題解決の第一歩です。
海洋生物への影響
海洋ごみは、魚や鳥、海洋哺乳類など多くの生物に悪影響を及ぼしています。
ウミガメやクジラなどの海洋生物は、海に漂う小さなプラスチック片を食物と誤認して食べてしまうことがあります。これらのゴミは、消化管を塞いでしまうことがあり、これにより栄養不足や内部損傷を引き起こし、最悪の場合は命を落とすこともあります。
また、プラスチックに含まれる化学物質が生物のホルモン系に影響を与えることも指摘されており、繁殖能力の低下などの深刻な影響が懸念されています。
近年では、マイクロプラスチックと呼ばれる微細なプラスチックごみも問題になっています。マイクロプラスチックは、海に住む生物に取り込まれ、食物連鎖を通じて人体にも影響を与える可能性があります。
このような影響は、生態系全体のバランスを崩す可能性があるため、非常に慎重な対応が求められます。
環境問題と経済への影響
海洋ごみは環境問題だけでなく、経済にも大きな影響を与えています。
特に観光業や漁業は直接的な打撃を受けています。美しい海辺がごみで覆われることで観光客が減少することがあります。また、ごみによって漁獲物が減少することもあり、さらに海ごみが漁網に絡まると、漁業被害が発生し、漁師の収入にも影響が出ています。
また、政府や地方自治体が清掃活動にかける費用は、経済にとっても大きな負担となっています。
この問題をうまく解決するためには、環境を守るだけでなく、経済的な観点からも効果的な対策を考えることが求められます。
海ごみ削減の国際的取り組み
海ごみ問題は、国境を越えた国際的な課題です。近年、海ごみ削減に向けた国際的な取り組みが活発化しています。
海洋プラスチック憲章と協定
海洋プラスチック憲章(Ocean Plastics Charter)は、海洋プラスチック汚染を減少させるための国際的な取り組みの一環です。
この憲章は、2018年にカナダの主催で開催されたG7首脳会議の際に提唱されました。憲章の目的は、プラスチックの持続可能なデザイン、使用、回収、リサイクルを促進し、プラスチック廃棄物の海洋への流出を阻止することです。
さらに2019年開催のG20大阪サミットでは、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が提案され、87の国・地域がこのビジョンを共有しています。
また、2022年には、世界的なプラスチック汚染問題に対処し、持続可能な生産と消費を促進することを目的とした「国連環境計画(UNEP)によるプラスチック汚染対策に関する国際的な法的拘束力のある協定」が国連環境会議(UNEA 5.2)合意され、2024年までに正式なテキストが完成し、批准されることを目指して作業がすすめられています。
各国の取り組み
海洋ごみ問題に対する国際的な取り組みは、国によってさまざまです。
中国やフィリピン、ベトナムなどは経済発展に伴い、プラスチックの使用量が多くなっているため、海洋ごみの排出量が多いと推計されています。
これらの国々では、国際的な圧力と環境保護への意識向上を背景に、段階的にプラスチック製品の使用制限を強化したり、廃棄物処理施設の改善、教育プログラムにより環境意識を向上させるなど、さまざまな対策がすすめられています。
また、イギリスではプラスチック製ストローや綿棒の使用禁止を、ノルウェーではプラスチック製品に対する高税率の導入や、リサイクルシステムの強化を進めています。
日本では、プラスチックリサイクルの推進に加えて、2025年までに使い捨てプラスチックの削減を目指す政策「プラスチック資源循環戦略」が立てられています。
これらの取り組みは、それぞれの国の文化や経済に根ざした方法で進められており、地球規模での問題に地域ごとに対応している点が特徴です。
企業の環境対策と責任
企業における環境対策は、企業の社会的責任の一環として急速に重要性を増しています。
特に大手企業では、環境保全活動が企業イメージやブランド価値に直接影響するため、プラスチックごみ削減をはじめとした環境対策に積極的に取り組んでいます。
【プラスチック使用量の削減】
プラスチック製容器・包装の軽量化や薄型化
紙やバイオプラスチックなどの代替素材への切り替え
プラスチック製品の使用量削減目標の設定
【プラスチックリサイクルの推進】
リサイクルしやすい素材の使用
リサイクルインフラの整備
リサイクル製品の開発・販売
【プラスチックごみの適正処理】
社内におけるプラスチックごみの分別・収集
リサイクル業者の利用
海洋プラスチックごみ回収活動への参加
【消費者への啓蒙活動】
プラスチックごみ削減に関する情報提供
マイバッグやマイボトルの利用促進
企業のこのような取り組みは、消費者の意識改革にも繋がり、より広範囲の環境保護へと貢献しています。
海ごみゼロウィーク
海ごみゼロウィークの開催
海ごみゼロウィークは、2019年から始まり、日本財団、環境省が中心となって、「海ごみゼロ」を合言葉として、ビーチや沿岸地域で清掃活動を行い、海洋保護の重要性を訴えかけます。春と秋の年2回、強化期間が設定されていますが、この期間以外でも清掃活動を支援しています。
具体的には、参加者が地元の海岸でごみ拾いを行い、集められたごみの種類と量を記録します。これにより、地域ごとの海洋ごみの実態が可視化され、問題解決の一助となります。2023年度には、全国約1120か所、46.5万人が参加しました。
☆2024年海ごみゼロウィーク☆
【春】5月30日(木)~ 6月9日(日):5月30日「ごみゼロの日」、6月5日「環境の日」、6月8日「世界海洋デー」
【秋】9月20日(金)~ 9月29日(日):9月20日「国際海岸清掃の日」
イベント期間中の取り組み
海ごみゼロウィークに参加するには、特別な知識やスキルは必要ありません。青いアイテムを身につけて、一斉清掃に参加しましょう。
さらに海ごみゼロウィーク中には、清掃だけではなく、特別なイベントや活動が全国的に実施されます。
これには、アートの展示や映画の上映が含まれ、海洋保護のメッセージを芸術や文化を通じて伝えます。また、著名な環境活動家による公開講演やパネルディスカッションが行われ、参加者は海洋保護の最前線で何が行われているかを学び、自らがどう行動すべきかを考える機会を得ます。
これらの取り組みは、参加者に具体的な行動を促すだけでなく、コミュニティ全体の意識を一層高める効果があります。
未来の海を守るために
メディアや企業の取り組み
メディアと企業は海洋保護の推進者として、非常に重要な役割を果たしています。
【メディアの取り組み】
多くのメディア企業が環境問題にフォーカスした番組を制作しています。これにより、一般の人々に海洋保護の重要性を訴えかけ、意識の高揚を図っています。
【企業の取り組み】
ファッション業界では、海洋プラスチックを再利用した製品を市場に投入し、消費者に対して環境保護の重要性を伝えています。例えば、一部のファッションブランドでは、海洋プラスチックを再利用した衣類のコレクションを展開し、消費者に環境問題への意識を高めるよう働きかけています。
また、ゼロウェイストの哲学を企業運営に取り入れ、無駄を削減しつつ環境への負担を軽減する方法を模索しています。
これらの取り組みが公共の場で広く認知されることで、他の企業や個人にも影響を与え、広範囲にわたる環境保護意識の向上が促されています。
メディアと企業は、これらの活動を通じて、海ごみ問題に対する意識改革を進め、環境へのポジティブな変化を生み出すためのカギとなっています。
環境教育と意識改革の必要性
環境問題に対する根本的な解決策の一つは、教育を通じた意識改革です。子供たちから大人まで、環境教育はすべての年代に必要です。
【学校教育における取り組み】
学校での環境保護カリキュラムを充実させ、環境教育を強化することで、子どもたちは環境に優しい行動を自然と身につけることができます。例えば、海ごみ問題に焦点を当てた授業やプロジェクトを通じて、子供たちに早い段階から環境保全の大切さを教えることができます。
海ごみ拾いイベントへの参加などを奨励することで、理論だけでなく実際の環境活動を体験させることが重要です。これにより、学んだことが現実の問題解決につながることを実感できます。
【成人向けの教育プログラム】
成人を対象にした環境保護セミナーやワークショップを定期的に開催することで、日常生活での環境配慮を促すことができます。これらのプログラムは、環境問題への理解を深め、具体的な行動変化を引き起こすきっかけとなります。
【地域社会との連携】
日本の多くの自治体が実施している地元の海や川の清掃活動は、市民一人ひとりが環境保全に貢献する機会を提供しています。これらの活動に参加することで、地域社会全体の環境保護意識が高まります。
これらの教育活動とプログラムは、個人の行動変化を促し、集団としての環境への影響を最小限に抑えるための意識を形成します。
教育を通じて得られる知識と経験は、環境保護の実践において非常に強力なツールとなります。
法規制と啓発活動の強化
法規制の強化
法規制は海洋ごみ問題に対する即効性のある対策です。
○プラスチック製品の使用制限:世界中の多くの国々では、プラスチック製品、特に使い捨てプラスチックの使用を制限する法律が導入されています。これにより、プラスチック廃棄物の量を減らすことが期待されています。
○日本における取り組み:2020年から、プラスチックショッピングバッグの有料化が義務付けられました。この政策は消費者のプラスチック使用量の大幅な削減に寄与しており、その効果は顕著です。また、2022年にはプラスチック資源循環促進法が改正されました。この法律では、プラスチックの使用量削減目標を設定し、事業者に対してプラスチック使用量削減の取り組みを義務付けています。
○罰則の強化::プラスチック製品の不適切な使用や海ごみのポイ捨てに対する罰則を強化することも、効果的な策の一つです。これにより、違法行為の抑制と同時に、公衆の行動標準に対する認識を高めることができます。
啓発活動の重要性
啓発活動は、プラスチック汚染を減らすために、緊急かつ効果的な手段となります。
○法規制の理解と支持:法規制だけでは十分ではなく、これを支持する啓発活動が不可欠です。市民に法規制の目的や必要性を理解してもらうことで、法律の効果が最大化されます。
○継続的な情報提供:メディアや公的機関による継続的な情報提供が、市民の環境に対する意識を高め、行動変化を促すために重要です。
○啓発活動の実施:政府や自治体は、啓発キャンペーンを実施したり、教育プログラムを充実させたりするなど、さまざまな啓発活動を行う必要があります。
これらの法規制と啓発活動の強化は、海洋保護のための即効性と持続可能性の両方を提供します。法律による制限と市民の意識改革が連携することで、海洋環境への長期的な影響を最小限に抑えることが可能になります。
個人ができる環境保全活動
個人レベルでできる環境保全活動は多岐にわたります。日常でも「ごみゼロ」に貢献できるアクションがたくさんあります。
海や山で遊んだ後は、ゴミを持ち帰る
ペットボトルやレジ袋などの使い捨てプラスチック製品の使用を控える
マイバッグやマイボトルを持ち歩く
ごみを見かけたら拾って捨てる
地域の清掃活動に参加する
ごみ問題について周りの人に伝える
これらの小さな行動が集まることで、大きな環境改善が見込まれます。特に、SNSを利用した情報共有は、他の人々にも環境保護への意識を広める効果的な手段となり、個人の行動が広範な影響を及ぼすことを可能にします。
海は、私たちに食料、酸素、レクリエーションなど、さまざまなな恵みを与えてくれます。
しかし、海ごみ問題がこのまま深刻化すれば、これらの恵みも失われてしまうかもしれません。
海ごみゼロウィークを契機に、一人ひとりが行動を起こし、持続可能な未来を築くための一歩を踏み出しましょう。
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