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ユネスコも認めた!未来に残したい日本酒の風景

公開日: 更新日:2025.01.17
日本酒と米と稲

2024年12月、「日本の伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました

日本酒、焼酎、泡盛など、日本の各地で造られるお酒は、単なる飲み物ではなく、長い歴史と文化を育んできた日本の宝です。この登録は、日本の食文化の多様性と、その持続可能性への関心の高さを示すものです。

一方で、後継者不足や環境の変化など、持続可能な未来に向けて乗り越えなければならない課題もあります。
酒造りの魅力と現状、そして未来への取り組みを一緒に考えていきましょう。


伝統的酒造りとは?

酒蔵の保存用タンク

酒造りの歴史と進化

日本の伝統的な酒造りは、約2000年前の稲作文化とともに始まったとされています。当時の酒は、現在のものとは異なり、米を浸水させた後、そのまま発酵させる簡単なものでした。その後、古代には蒸米を用いるようになりました。最初期の酒は、神事で用いられるお供え物としてつくられ、現在のような醸造技術が発展するまでには長い時間がかかりました。

特に奈良時代における寺院や神社での酒造りが、日本酒の基礎を形づくった重要な時期です。
その後、江戸時代になると全国各地で独自の酒造りが発展し、多様な日本酒が誕生しました。また、江戸後期には三段仕込みやもろみの発酵管理など、現在の酒造りの基本となる技術も確立されています。
明治時代以降は、近代的な醸造技術の導入が進み、日本酒の品質は飛躍的に向上しました。しかし、第二次世界大戦後には、食糧事情の悪化や他の酒類との競争激化など、日本酒産業は大きな打撃を受けます。

こうして、時代ごとに発展を遂げながら、地域の風土や文化に根ざした味わい深い日本酒がつくられるようになりました
近年では、伝統的な製法を守りながら、新たな価値を生み出す取り組みが活発化しており、日本酒は再び世界的に注目を集めています。


ユネスコが認めた価値

2024年12月、日本の「伝統的酒造り」はユネスコ無形文化遺産に登録されました。この登録は、日本の伝統的な酒造り技術が、長い歴史と文化の中で培われた貴重なものであることを世界的に認められたことを意味します。

ユネスコが評価したのは、酒造りに用いられる多様な麹菌や、それらを用いた発酵技術、そして地域ごとの風土に根ざした多様な酒造りのスタイルです。これらの要素が複合的に作用することで、日本各地で個性豊かな日本酒が生まれています。

また、酒造りは単なる飲料の生産ではなく、地域の自然環境、職人の技、そしてコミュニティのつながりが一体となった文化そのものです。特に杜氏と呼ばれる酒造りのリーダーが担う役割は重要で、長年の経験と勘に基づいて、米の選定、麹作り、醪の管理など、酒造りの全工程を指揮します。
さらに、麹菌や酵母など微生物を巧みに活用する技術は、他国の発酵文化とも一線を画します。これらの伝統を守ることは、日本の歴史や風土を未来へつなぐことにもつながります。

また、酒造りは単なる飲み物の製造にとどまらず、地域の文化や社会生活と深く結びついていることも評価されており、ユネスコの登録は、こうした価値を国際的に認めたものといえるでしょう。


伝統の技が育む味

日本酒の味わいは、使用する米の種類、麹菌の種類、酵母の種類、そして製造過程、職人の技術が織りなす繊細なバランスによって生まれます。例えば、山田錦は日本酒造りに最も適した品種として知られており、多くの高級日本酒に使用されています。また、麹菌は、米のでんぷんを糖化し、アルコール発酵を促す重要な役割を担っています。

伝統的な酒造りでは、米や水といったシンプルな材料が、杜氏の経験と技術によって芳醇な香りやまろやかな味わいを引き出します。また、白麹菌や黄麹菌の働きが、発酵を助け、甘みや酸味を生み出す重要な役割を果たします。
一つひとつの工程に手間ひまを惜しまない伝統的な製法が、酒蔵ごとに個性的な味わいを育んでいるのです。

このように、日本酒の味わいは科学と自然、そして職人の感性が融合した芸術といえます。一口含むだけで、こうした深い背景を感じ取れるのが日本酒の魅力です。


地域と酒の深いつながり

格子窓と酒玉

各地の風土が生んだ酒

日本は南北に長く、地域によって気候風土が大きく異なります。日本各地の酒造りには、それぞれの土地ならではの風土が深く関わっています

たとえば、新潟県では雪解け水が地下水に変わり、ミネラル分が少ない柔らかな水として酒造りに使われています。そのため、口当たりの軽い淡麗辛口の日本酒が生まれるのです。一方、宮崎県や鹿児島県では、温暖な気候と豊かな黒麹菌の活用により、香ばしくてコクのある焼酎がつくられています。さらに、沖縄県の泡盛は、亜熱帯の気候が熟成に適しており、古酒(クース)と呼ばれる深みのある味わいが特徴です。
また、同じ地域内でも、山間部と平野部では使用する米の種類や水質が異なるため、味わいが変化します。

このように、土地の水、気候、土壌、さらには文化が複雑に絡み合い、地域ごとに独自の酒が生まれているのです。日本酒は、その土地の気候風土、米、水、そして人々の暮らしの中で育まれてきた、いわば「地域の顔」と言えるでしょう。


地域と酒蔵の絆

酒蔵は、地域のコミュニティと深い絆で結ばれています。酒蔵は、地域の産業の中心として、人々の生活を支えてきました。
たとえば、地元の米農家が育てた酒米を使うことで、地域経済を支える重要な役割を果たしています。また、地元の祭りや行事で振る舞われる日本酒は、地域住民の絆を深める大切な存在です。

一部の酒蔵では、学校の跡地や古民家を利用して新しい酒造りを始め、地域活性化に貢献している事例もあります。さらに、酒造りを支える職人たちは、地域の若者を育成し、伝統の技を次世代に継承しています。

このように、酒蔵は単なる生産拠点ではなく、地域の歴史や文化を未来に伝える重要な存在なのです。


観光資源としての酒

日本の酒蔵は、観光資源としても注目されています

多くの酒蔵では見学ツアー試飲会を実施しており、国内外の観光客を魅了しています。観光客は、日本酒の製造過程を見学したり、さまざまな種類の日本酒を飲み比べたりすることができます。また、日本酒をテーマにしたイベントも各地で開催されており、日本酒ファンだけでなく、一般の人々も気軽に日本酒に触れる機会が増えています。
特に、兵庫県の灘や京都府の伏見など、酒造りが盛んなエリアでは酒蔵巡りが観光の目玉となっています。

また、近年は酒蔵内にカフェやレストランを併設し、地元の食材を使った料理とともに日本酒を楽しめる施設も増えています。さらに、海外からの観光客に向けて英語や中国語での案内を行う酒蔵もあり、日本酒文化の国際的な発信拠点としての役割も果たしています。

こうした取り組みは、地域の魅力を伝え、観光業を通じた経済効果を生み出しているのです。


日本酒の現状

奉納樽

国内外の日本酒市場

日本酒市場は、国内外で異なる動きを見せています。

日本酒は、かつて国民酒として親しまれていましたが、近年はビールやワインなど他のアルコール飲料との競合が激化し、国内での消費量は減少傾向にあります。特に若い世代の日本酒離れが深刻な問題となっています。
例えば、国税庁のデータによると、2022年の日本酒消費量はピーク時の約3分の1にまで減少しています。

一方で、食文化への関心の高まりとともに、日本酒も世界中で注目されるようになり、海外市場は成長を続けています。特にアメリカやヨーロッパ、アジアで日本酒の人気が高まっており、日本酒を取り扱うレストランやバーが増加しています。日本酒の輸出額は2021年に約410億円と過去最高を記録しました。
この背景には、和食ブームや健康志向が挙げられます。低アルコールで食事に合わせやすい日本酒は、海外の食文化にも溶け込みやすいのです。


業界の課題と技術革新

今、日本酒業界は、国内市場の縮小と海外市場の拡大という二つの大きな課題を抱えています。

まず、国内市場の縮小に伴い、酒蔵の経営が厳しくなっています。特に、小規模な酒蔵は生産量の減少や後継者不足に直面しています。
国内市場の活性化のためには、若い世代に日本酒の魅力を伝えるための新たな取り組みが必要不可欠です。その一方で、技術革新が新たな可能性を生み出しています。例えば、最新の醸造技術を活用した「生酒」や「低アルコール酒」の開発が進められており、若者や女性にも人気です。

海外市場の拡大に向けては、品質の安定化や多様化が求められています。
伝統的な製法を守りながら、新たな味わいの日本酒を開発したり、日本酒と食のマリアージュを提案したりするなど、海外市場のニーズに応じた新たな日本酒のスタイルも研究されています。また、IT技術を活用したスマートファクトリー化や、AIによる品質管理など、最新の技術を導入する動きも活発化しています。

こうした技術革新が、伝統を守りつつ新しい市場を開拓する鍵となっています。


無形文化遺産登録の意義

日本の伝統的酒造りが無形文化遺産に登録されたことには、重要な意義があります。
この登録は、日本酒が単なる飲み物ではなく、歴史や文化、地域コミュニティを支える存在として、日本文化の重要な一部であることを世界に示すものであり、日本酒の価値を再認識するきっかけとなります。

また、無形文化遺産登録によって、日本酒のブランドイメージ向上や国際的な認知度が高まることで、観光業や輸出拡大のきっかけとなります。さらに、登録は国内の酒造りを見直す良い機会でもあります。
これを機に、地域の酒蔵や職人への支援が広がり、後継者育成や技術の継承が促進されることが期待されます。

しかし、無形文化遺産登録はゴールではなく、むしろ新たなスタートラインです。日本酒業界は、この登録を機に、伝統を守りながら、より一層の革新を進めていく必要があるのではないでしょうか。


日本酒の未来を拓く

小さなコップに酒を注いでいる(試飲)

酒文化の継承と保存

ユネスコ無形文化遺産に登録された「伝統的酒造り」は、単なる称号ではなく、未来への責任を伴うものです
この貴重な文化遺産を後世に引き継いでいくためには、酒文化そのものを深く理解し、守り続けることが不可欠です。特に、杜氏が長年かけて培ってきた伝統的な酒造りの技術や知識は、日本の貴重な文化遺産と言えるでしょう。

しかし、少子高齢化の影響で、酒蔵の後継者不足が深刻な問題となっています。この課題を解決するためには、若者たちが酒造りに興味を持ち、積極的に携わるような環境づくりが急務です。

【魅力的な職場環境の整備】
若者が長く働き続けられるような、働きやすい職場環境を整えることが重要です。これは、労働時間の見直しや、キャリアアップの機会の提供、そして多様な働き方を認めることなどが挙げられます。

【教育プログラムの充実】
酒造りの基礎から応用までを体系的に学べる教育プログラムを充実させることで、若手杜氏の育成を加速させることができます。

【地域との連携】
地域の学校や大学と連携し、インターンシップや実習の機会を提供することで、若者に酒造りの現場に触れる機会を与えることができます。

【酒文化の普及】
酒蔵見学やワークショップなどを通じて、日本酒の文化や歴史を広く伝えていくことで、若者たちの関心を高めることができます。


地域と酒蔵が織りなす、豊かな未来

地域ごとに異なる風味や特色を持つ日本酒は、その土地の魅力そのものであり、地域社会と深く結びついた文化です。酒蔵は、単に酒を造る場所ではなく、地域文化を育み、地域社会の一員として重要な役割を果たしています。

地域との共存共栄

酒蔵が地域社会と深く関わることで、双方が活気づきます。

【地域イベントへの参加】
地域の祭事やイベントに積極的に参加し、地域住民との交流を深めることで、酒蔵の認知度向上だけでなく、地域全体の活気につながります。

【地元食材とのコラボレーション】
地元の農産物を使った日本酒の開発や、地元の飲食店との連携によるペアリングメニューの提供は、地域経済の活性化に貢献するだけでなく、地域の食文化をさらに豊かにします。

【地域住民との共創】
酒米の栽培体験や、酒造りのワークショップなど、地域住民が酒造りに参加できる機会を提供することで、地域への愛着を深め、地域コミュニティの活性化を促します。


地域経済への貢献

地域産の酒米や水を使った日本酒を購入することは、地元の農業や産業を支援することにつながります。また、酒蔵見学や試飲会、イベントへの参加は、地域への観光客誘致にも繋がり、地域経済の活性化に貢献します。

さらに、近年では、クラウドファンディングなどを通じて、直接酒蔵を支援する動きも広がっており、手軽に応援の輪に加わることができます。

小さな一歩が、地域の伝統を守る大きな力になるのです。


日本酒を楽しむ新しい形

日本酒は、古くから日本人に愛されてきた伝統的なお酒ですが、近年ではその楽しみ方が大きく広がっています。

【カクテルや料理とのマリアージュ】
日本酒は、単体で楽しむだけでなく、カクテルのベースや、さまざまな料理とのペアリングとしても注目されています。例えば、日本酒ベースのカクテルは、その爽やかさや個性的な味わいが若い世代から人気を集めています。また、チーズやチョコレートなど、洋食との組み合わせも新しい発見をもたらします。

【ノンアルコール日本酒】
アルコールが苦手な方や、運転される方でも楽しめるノンアルコール日本酒も登場しています。米の旨味や香りが凝縮されたノンアルコール日本酒は、幅広い層から支持されています。

【日本酒スイーツ】
日本酒を使ったアイスクリームやケーキなどのスイーツも人気です。日本酒の風味とスイーツの甘みが絶妙に調和し、新しい食体験を提供します。

【オンライン販売とバー】
オンラインストアの普及により、自宅にいながらさまざまな日本酒を試すことができるようになりました。また、日本酒専門のバーも増加し、専門知識を持ったバーテンダーから、日本酒の選び方や飲み方を学ぶことができます。

【イベントやワークショップ】
日本酒をテーマにしたイベントやワークショップも盛んに開催されています。日本酒の試飲会や、日本酒を使った料理教室など、楽しみ方はさまざまです。

これらの新しい取り組みは、日本酒をより身近なものとし、若い世代や海外の人々にもその魅力を伝えることにつながっています。
特に、SNSや動画サイトを活用した情報発信や体験型のイベントは、人々の興味を引きつけやすく、こうした新しい形で日本酒に触れることが、日本酒の幅広い層への浸透に貢献し、日本酒市場の活性化に繋がることが期待されます。



日本酒は、日本の伝統文化を象徴する存在であり、同時に、現代の食文化を彩る重要な要素でもあります

今、日本酒は伝統を守りながらも、常に新しい魅力を発信し続けています。
多様化するライフスタイルや食文化に合わせて、日本酒の楽しみ方も多種多様になってきています。今後も、日本酒は、日本文化を代表する飲み物として、世界中の人々に愛される存在であり続けるでしょう。






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この記事を書いた人

中山

地球を愛する料理研究家であり、SDGsと食品ロスに情熱を傾けるライターです。食品ロス削減を通じて、環境保護と健康的な食生活の両立を促進し、持続可能な社会の実現を目指しています。趣味は家庭菜園。

監修者

文 美月

株式会社ロスゼロ 代表取締役
大学卒業後、金融機関・結婚・出産を経て2001年起業。ヘアアクセサリーECで約450万点を販売したのち、リユースにも注力。途上国10か国への寄贈、職業支援を行う。「もったいないものを活かす」リユース経験を活かし、2018年ロスゼロを開始。趣味は運動と長風呂。