2025年3月28日、消費者庁は「食品期限表示の設定のためのガイドライン」を改正・施行しました。この改正は、食品ロスの削減と食品の安全性確保を目的としており、食品事業者や消費者にとって重要な変更点が含まれています。
これまでのガイドライン策定から20年が経過し、食品関連事業者や消費者を取り巻く環境の変化、食品ロス削減への意識の高まりなどを踏まえて見直しが行われました。
主な改正内容

「食品期限表示の設定のためのガイドライン」の再編と明確化
これまでの食品表示基準Q&Aに含まれていた期限表示に関する項目が整理され、新たに「別添 食品期限表示の設定のためのガイドライン」としてまとめられました。これにより、事業者が期限設定を行う際の参考となる情報がより明確になりました。
科学的根拠に基づいた期限設定の促進
安全係数の見直し
従来、食品の消費期限や賞味期限は、保存試験で得られた最大保管期間に対して「安全係数」を掛けて設定されていました。この係数は「0.8」以上が望ましいとされていましたが、実際には0.8未満の係数を用いて必要以上に短い期限が設定される事例もありました。
今回の改正では、安全係数を「1」に近づけ、差し引く日数を「0」に近づけることが望ましいと明記され、食品の特性に応じて科学的・合理的に期限を設定するよう求められています 。
より実測値に近い期間を賞味期限とすることで、必要以上に短い期限設定を避け、食品ロス削減に繋げることを目的としています。
食品の特性に応じた期限設定
食品の消費期限と賞味期限の設定において、食品の特性(酸性度、水分量、保存環境など)を十分に考慮し、微生物試験や理化学試験、官能検査などの科学的なデータに基づく客観的な指標と基準を用いた適切な期限設定を促しています。
これまでは画一的に「5日以内なら消費期限、5日以上なら賞味期限」といった区別をしていた事例があったため、それぞれの定義に基づいた設定を求めています。
表示方法の見直しと消費者への情報提供の強化
消費者が消費期限と賞味期限の意味を正しく理解し、期限切れ食品の取り扱い、適切な保存方法などを適切に判断できるよう、事業者による情報提供の重要性が強調されています。
具体的には、賞味期限を「おいしく食べられる目安の期限」として明確に説明し、日付も年月日の形式で表示するなど、消費者が期限の意味を正しく理解しやすいように表示方法を見直しました。これにより、まだ食べられる食品の過剰廃棄を防ぎ、食品ロスの削減につなげることを目的としています。
改正で期待される効果

〇食品ロス削減への貢献
最も大きな期待は、食品ロスの大幅な削減です。安全係数の見直しにより、これまで過度に短く設定されがちだった賞味期限が、科学的根拠に基づいて適正な期間に延長されることで、まだ食べられる食品の廃棄が抑制されます。これにより、製造・流通段階での「手前廃棄」や、家庭での「期限切れ廃棄」が減少することが見込まれます。
〇経済的メリットの創出
食品ロスが減ることで、廃棄物の処理費用や、原材料・製造コストの無駄が削減されます。また、賞味期限の延長は、在庫管理の効率化や、輸送・保管コストの削減にも繋がり、食品関連事業者全体の経営効率向上に寄与します。これは最終的に、消費者への価格転嫁の抑制にも繋がる可能性があります。
〇消費者の理解促進と行動変容
ガイドラインの再編と明確化、そして事業者による情報提供の強化により、消費者が消費期限と賞味期限の意味を正しく理解し、それぞれの食品の特性に応じた適切な保存・喫食判断ができるようになります。これにより、消費者の食品に対する意識が高まり、食品を大切にする行動が促進されることが期待されます。
〇環境負荷の低減
食品廃棄物の削減は、焼却によるCO2排出量の削減や、埋め立てによる環境負荷の低減に直結します。資源の有効活用が進むことで、持続可能な社会の実現に貢献します。
〇食品産業全体のイノベーション促進
科学的根拠に基づいた期限設定の徹底は、食品メーカーに対し、より高度な品質管理技術や鮮度保持技術の開発を促します。これにより、食品の品質保持技術全体のレベルアップや、新しい流通・販売方法の創出にも繋がる可能性があります。
このように、今回のガイドライン改定は、食品ロス削減を軸に、経済、環境、消費者行動、産業技術といった幅広い側面でプラスの効果をもたらすことが期待されています。
「1/3ルール」について

改定と「1/3ルール」
2025年3月の食品期限表示の設定のためのガイドライン改定では、いわゆる「1/3ルール」そのものの変更は明示されていません。
しかし、今回のガイドライン改定は、結果的に「1/3ルール」の運用を柔軟にする、あるいはその影響を緩和する可能性を秘めています。
「1/3ルール」は、製造日から賞味期限までの期間を3分割し、小売店への納品期限を製造日から1/3以内、消費者への販売期限を製造日から2/3以内とする商慣習です。このルールが食品ロスの一因と指摘されてきました。
今回のガイドライン改定により、賞味期限が延長されれば、必然的に「1/3ルール」が適用される期間全体も長くなります。 例えば、賞味期限が90日の商品の場合、「1/3ルール」では30日までに小売店に納品する必要がありました。しかし、賞味期限が120日に延長されれば、「1/3ルール」でも40日までに小売店に納品できるようになります。
「1/3ルール」への影響
〇小売店での販売期間の延長
賞味期限が長くなることで、小売店で販売できる期間が実質的に長くなり、売れ残って廃棄されるリスクが減少します。
〇物流における融通性の向上
流通段階での時間的余裕が生まれ、効率的な配送や在庫管理が可能になる可能性があります。
〇製造段階での生産計画の柔軟化
予測変動への対応や、計画的な生産が可能になり、過剰生産による廃棄を抑制できる可能性があります。
ただし、「1/3ルール」はあくまで商慣習であり、法的な拘束力はありません。今回のガイドライン改定は、食品の安全性を確保しつつ、科学的根拠に基づいた適切な期限設定を促すものであり、流通業界全体の商慣習見直しを直接的に命じるものではありません。
しかし、食品ロス削減への意識が高まる中で、今回のガイドライン改定が、流通業界における「1/3ルール」の見直しや、より柔軟な運用を促すきっかけとなる可能性は十分にあります。実際に、大手小売業者や食品メーカーの中には、すでに「1/3ルール」の緩和や撤廃に向けた取り組みを進めている事例も存在します。
2025年3月のガイドライン改定は、賞味期限の延長を促すことで、間接的に食品ロス削減に貢献し、「1/3ルール」の運用にも良い影響を与えることが期待されます。
改定と消費者

2025年3月に行われた食品期限表示の設定のためのガイドライン改定は、食品ロス削減を目的としたものですが、消費者にもさまざまな影響を与え、それに伴い消費者自身の行動が食品ロス削減に大きく貢献することが期待されます。
消費者への影響
〇賞味期限の延長
多くの加工食品で賞味期限が延長される可能性があります。これにより、これまでより長く食品を家庭で保管できるようになり、買いだめがしやすくなる、急な予定変更があっても食品を無駄にしにくくなるなどのメリットが考えられます。
〇食品ロスへの意識向上
ガイドライン改定のニュースを通じて、食品ロス問題への関心が高まることが期待されます。消費者は、期限表示の重要性を再認識し、食品を大切にする意識が向上する可能性があります。
〇情報の混乱や不安
一方で、特に消費期限と賞味期限の違いを十分に理解していない消費者にとっては、「期限が延びたからといって本当に安全なのか」という不安や、従来の感覚で期限切れのものを捨ててしまうといった混乱が生じる可能性もあります。特に、生鮮食品や乳製品など、品質の変化が早い食品については、これまで以上に消費者の注意が必要となるでしょう。
〇「てまえどり」の促進
期限が延びることで、小売店で手前から商品を取る「てまえどり」の意識が薄れる可能性も考えられます。しかし、事業者が「てまえどり」を促す情報提供を継続することで、店舗での食品ロス削減にも繋がります。
消費者教育と情報提供の重要性
2025年3月の食品期限表示ガイドライン改定は、食品ロス削減への大きな一歩ですが、その効果を最大限に引き出すためには、消費者への効果的な教育と情報提供が不可欠です。賞味期限の延長は食品ロス削減に貢献する一方で、消費者が「まだ食べられる」と「食べられない」の判断を誤るリスクもはらんでいます。
このため、行政、事業者、消費者団体が一体となり、「消費期限」と「賞味期限」の定義を改めて周知徹底することが重要です。例えば、賞味期限は「おいしく食べられる目安」であり、期限を過ぎてもすぐに食べられないわけではないことを、より具体的に、分かりやすい言葉で伝える必要があります。視覚的な教材や、実際の食品を使ったワークショップなども有効でしょう。
また、適切な食品の保存方法や、開封後の適切な取り扱い方についても、きめ細やかな情報提供が求められます。冷蔵庫や冷凍庫の活用術、余った食材のリメイクレシピの紹介など、具体的な行動を促す情報が消費者の意識変革に繋がります。
消費者が正しく理解し、食品ロス削減への意識を高めることで、今回のガイドライン改定は、単なる表示変更に留まらず、持続可能な食生活を実現するための大きな推進力となるでしょう。
今回のガイドライン改定は、食品ロス削減に向けた事業者側の努力を促すものですが、最終的に食品ロスを減らすためには、私たち消費者一人ひとりの意識と行動が不可欠です。正しい知識を身につけ、日々の生活の中で食品を大切にする工夫を続けることで、持続可能な社会の実現に寄与することが期待されます。
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